#君を探して
「おにいちゃん、おにいちゃん、トニーがいない」
ぼくはため息をつくと、コントローラーを持ったまま振り返る。弟が絵本を小脇に抱えて立っていた。小さな握り拳と、固く強ばったマシュマロみたいなほっぺ。
「なんだって?」
「トニーがいないの」
「だから?」
「いっしょにさがして」
ぼくはテレビに顔を戻した。
「イヤだ」
「どうして? トニーがきらいなの?」
弟の声が涙で滲む。
ぼくはふんと鼻を鳴らして、
「嫌いだ。あいつの顔を見ているとイライラする」
冷たく言い放つと、弟は火のついたように泣きだして、「ママー!」とリビングを出ていった。
弟は今、『トニー君を探せ』という絵本に夢中になっている。何十人、何百人というキャラクターの中から、たったひとりのトニー君を探す——そんな苦行に付き合わされて、ぼくの目はしょぼしょぼだ。
だれが探してやるもんか。
ぼくはコントローラーを握り締めると、ぐっと身を乗り出してテレビを睨みつけた。
3/14/2025, 4:21:04 PM