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「愛があれば平和だと思う?」
「どうかな。愛はあっても世界が平和とは言えないし…」
「確かに…。」
「愛ってさ色んな種類があるだろ?愛情表現だって人それぞれだし。その中には他人とは相容れなかったり、誰かを脅かすものがあるわけだ」

 愛故に独り占めにしたい、求められていない愛を押し付ける、これらは周りや相手が頷かない限り迷惑な行為になるだろう。

「君に触れる事が好きだよ。」
 耳からさら、と逃げ落ちる髪を直して、触れた。
 言葉では伝えきれない、物に思いの丈を詰めこんだって満足しない。だから誰よりも君に触れて、伝え足りない愛を移そうとしている。
 これは君が受け止めてくれるから成り立つものだ。

「もし…」
「…もし?」
「……何でもない」

 言いかけて口を動かすことは止めたが指先は顎の下へ。
 
 もし……
 俺の愛情表現が君のほそい首を絞めること、だったら

 喉の微かな凹凸にとく、とく、と脈打っている様を感じ、苦しげな顔をじっと見つめて「好きだよ」と伝えたら答えてくれるだろうか?それとも狭くなった気道で空気を取り込むことに必死な君は、このまま締め上げられたら事切れるかもと穏やかではないかもしれない。少し見たいという気さえする。…ほら、平和じゃなくなった。

 想像上の君は苦しいにもかかわらず聖母のような笑みを浮かべ腕を弱々しく掴んだ。その一連の流れに別のコトが頭を過ってかぶりを振るう。

「…ずっと撫でてるけど私、猫じゃないよ」
「あぁ、ごめん」

 どうやら君を置き去りにして喉を撫で続けていたらしい。
 君に搔き乱される心中は平和とは程遠い。
 『愛と平和』、俺の中では常に片方が優位にあった。もう片方は、故郷の暖炉の前にでも置いてあるのかもしれない。

3/11/2023, 6:32:50 AM