隠された手紙
家族でキャンプに来た小さな沢で、私は石の間から、小さく折りたたまれた手紙を見つけた。
「ママ、着火剤どこ?」持ってきたキャンプ専用の箱を探せばあるはずなのに、夫は、何かと私を呼びたがる。「は〜い、今行くわ」、私は家族のもとに行った。小学生の息子と、その妹の方が、着々と必要な物を出していく。準備は、もうほとんど整っていた。
6年生ともなば、夫と2人でテントも組み立てられる。娘は、クッションシートを、その中に敷き詰めている。
一段落したら、急にポケットに入れたあの紙が気になってきた。
差出人も受取人も書かれていない、メモのような紙にただ一言『分かった』。
「ママ、始めるよ」「はい、これ着火剤」「おう、これこれ!」
河原によくある、石を積み重ねた塔を眺めながら歩いているうちに、この手紙を見つけた。
「分かった」とは、相手の言う事を納得したという意味の「分かった」なのか、調べていたことで、何か「分かった」のか?この隠され
た手紙が相手の手に渡らなかったことで、何か変化があったのか?無かったのか?
いずれにしても、この手紙を届けるということは、現実的ではない。いつ、誰が書いたか分からないし、緊急性も無さそう。うちの前にキャンプした人たちの誰かとは限らないし。
「ママ、何が『分かった』の?」娘が急に、私の腰に抱き着いた。「え?」無意識に、わかった、わかった、わかった?と、つぶやいていたらしい。
なーんにも分からないままなのに、「分かった」みたいになってたなんて変だ。
私は家族とのキャンプに専念することにした。バーベキューは、2年生の娘にはまだ火傷の危険性もあるし、何も分からない手紙に振り回されてもしょうがない。何だか知らないが「分かった」ことにしようと、私は、お肉の焼け具合に注意を払うことにした。
No.97
2/3/2025, 2:47:47 AM