君の目を見つめると
君の目を見つめると、私のしてきたことが悪だと思えてくる。
君の瞳は特別だ。何かしらの闇を抱えておきながら、ずっと前を見ている。後ろを振り返ると亡霊にでも殺されるかのように、彼は目を逸らすことはなかった。
けれどそんな彼も、どうやら私のやり方に飲まれていっている。だが、その瞳だけは相変わらず、断固たる決意を持っていた。
「……」
コーヒーを嗜む時間というのは、無駄ではないと私は思う。それは、ルーティン化してしまったからでも、コーヒーを飲まないとやっていけないという訳でもない。
コーヒーはリセットしてくれる。飲むと、風味を味わいたくて今まで考えていたことを奥底にしまう。そして、その考えをそのままにしておくことができる。そう私は考えている。
「九条先生。流石に飲みすぎじゃないですか?」
「……」
君の瞳のせいだ。とも言えないまま、私はコーヒーを口に入れる。
「私は、弁護士というものは法律に依存しているの考えています」
「そりゃあ、そうですよね」
「それでは烏丸先生は、何に依存していますか?」
「……さあ。分かりませんよ。昔から無頓着なもので」
なるほど。彼は前を向いているのではなくて、前を向いて暇を潰しているのかもしれない。だが、そんな人間私は今までに見たことがない。
家庭では、常に今を見ることで精一杯な自分と、数歩先で私のことを見下すがために後ろを振り返る父と兄。そして亡き母。誰も前を見ている人なんていなかった。
「……どうしたんですか?九条先生」
「君の目を見つめると、私のしてきたことが悪だと思えてくる」
「は、は?」
「私は思想なんて持ち合わせてはいません。まして、法律に組み込むなんてもってのほか。ですが……」
「……それは僕が思想を持っているということですか?」
「いいえ。私は、君の目に惹かれているようですね」
「……え?」
そこに目はあるのに、そこから見つめていないような気がしてままならない。君の目というものは、私にとっては重要な意味を生す。
彼は私から目を逸らさない。彼もまた、私の目を見ている。
「でもその、悪だと思えてくるっていうのは……嘘、ですよね」
「…………烏丸先生。コーヒー、飲みますか?」
「……はい。まあ」
4/6/2026, 3:52:02 PM