tiny love
長い生涯の中で、一度だけ好きな人が出来たことがあった。叶わぬ恋ってやつなんだろうなと思いながらだったけれど。
叶わないってことは最初から分かりきっていたから、抱いてから少しも大きさの変わらなかった、
手のひらくらいの小さなそれ。
変わらなかった。
手のひらより大きくなることはなかった。
でも、手のひらより小さくなることもなかった。
本当に叶わないと諦めていれば、
本当に要らないと思っていれば、
小さくして消してしまうことは容易だったろうに、それをしなかったってことはきっと、小さなそれはわたしの中ではその大きさ以上に大切に抱いていたものだったのだろう。
時が経って、わたしも歳をとってしまった。
手のひらとおんなじ大きさだったそれは、
相変わらず手のひらとおなじ。
あの頃は、わたしがそれを大きさ以上に大切にしていたこと。ただそれだけしか分からなかった。
誰かの恋話を聞いていても共感できなかったし、あの人にも本当に自分のことが好きなのかって泣かれたくらいだったけれど、きっと大切に、、
今自分の手元にある小さなそれは、あの頃と変わらず手のひらと同じで、しかし確かな重みがあった。
小さい理由は分からないけど、
どんなに小さくても確かに存在していたから、今はそれでいいと思った。
朝起きて、朝食を作って、あの人を起こして、
一緒に食べて、食べるのが遅いあの人より先に着替えて、あの人に声をかけて家を出る。
あの頃より手が大きくなってしまって入らなくなった指輪を通したネックレスを首にかけて。
tiny love。
10/29/2025, 10:27:52 AM