Werewolf

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【ひなまつり】*GL
「ゆっか〜、雛人形飾った?」
「あー、うん、ママがなんか張り切ってた」
 真里が「いーなぁ」とボヤく。彼女の家は母親が早くに亡くなったので父だけの片親家庭であり、子供も真里と兄と弟の男ばかりの家だ。高校生になるくらいまではお父さんの姉、おばに当たる人が一緒に住んでいたが、真里が高校生になった頃に別居してしまった。今でも同じ市内にいるので会うこともある。彼女は、不思議な人だったな、と思う。
 裕香の家はごく一般的な四人家庭だ。父母と弟の家庭で、両親は共働きながら、母の方がイベント好きなために、十二ヶ月間何もないということがほとんどない。六月の何もない初夏でさえ、何かしらやっている気がする。
 そんなことなので、母はひなまつりの時期は毎年、早めの雛人形を出して、あれこれと飾り付けている。お代理様とお雛様だけの略式のものだが、曽祖母の代から受け継がれているとかで、十二単のあたりは見てみると多少古びているが、最近デパートで見かけたようなプリント生地などは使われていない。真里は、それを見に来るのを楽しみにしている。覚えばそれは小学生の頃からだった。家が近所で、親同士に何かあって交流があるのも手伝い、ひなまつりの前後に一緒に食事をする日がある。
「そっか〜」
「またマリ呼びなって、ママが」
「毎年呼んでくれるのマジ嬉しいんだけど」
 へへへ、と照れ笑い。あとで何かちょっとしたいいお菓子を持ってくるところまで含めて定期イベント化している。
「ウチ男ばっかで、雛人形もどこにあるかわかんないしね、マジで嬉しいんだよね〜」
 真里いわく、「確かにあるはずなのに、何度押入れやクローゼットを探しても見つからない」らしい。真里が三歳の時の写真には写っているのは裕香も見たことがあった。
「まぁいいんだけどね、出したら出したで、すぐしまわないと婚期が遅れるとかいうしさー」
 ちょっとしたくだらない話でも話すように、彼女はそう笑った。それを、裕香は「だよねー」と笑って受け止めるが、ほんの少しだけ気持ちが沈む。母親はひなまつりが終わると、必ず翌日の夜には人形を片付ける。理由は先ほど真里が述べた通りだ。裕香の結婚遅れるの嫌だもんねー、と、彼女も朗らかにそう笑う。
 しかし裕香の結婚というのは、きっと二人が考えるようなものではないのだ。
 裕香は出て行った真里のおばさんが、同じくらいの年齢の別の女性と手を繋いで歩いているのを見たことがある。それも、数回。部活の帰り、寄り道で、少し遠回りして立ち寄るスーパーの横の暗い路地。相手の女性から頬にキスをされて、満更でもなさそうに微笑むおばさんを見て、裕香は自分もそっち側なのだなぁ、と自覚していた。
 結婚という言葉に期待されるものを想うたびに、ほんのわずかに、呼吸が苦しくなるのだった。

3/4/2026, 3:19:32 AM