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ひぐらしの鳴き声が辺りを埋め尽くす。
夏特有の、じっとりとした陽光が、プール沿いに立て掛けられたフェンスに凭れるクラスメイトと目線を真摯に合わせている貴女を照らし出す。私の瞳が、クラスメイトの彼の、付き合わない?といっている唇の動きを、精細に映し出す。貴女のその目線は、どこか夏の病に浮かされている様で、その頬は、あの空に浮かぶ雲みたいに桃色に色付けられている。とそこで私は、夏の病に浮かされているのはどっちだろうかと、はたと考える。高校2年生の夏という人生のゴールデンタイムに、クラスの中でも人気が高いあの子に告白されている貴女なのか、入学当初に偶々近くの席に居たから、という理由で分不相応なまま貴女の横に居座って、あろうことか同じ性別なのにもかかわらず、目の前の光景による胸の痛みを必死に押さえている私なのか。そう考えると、私はずっと彼女のことを好きだったのだから、私のこれは一時的な病ではないのかもしれない。じゃあなんなのだろう。こんなに苦しいのに、病じゃないのだろうか、これは。
そうやって私が俯いて地面に斑点を作り出している間にも、貴女は彼と会話を重ねていて、それはもう、見るのも苦しいくらいに楽しそうだった。明日どうやって接せればいいんだろう、なんて考えた瞬間、あの子の隣、という私だけの特等席を彼が奪い去るイメージが思い浮かんで、また、苦しくなった。彼氏がいるあの子の隣になんて、私が居られる訳がない。その直感が、私の胸を貫く。今までの彼女との思い出が、頭を駆け巡る。
ごめんね、とLINEにうちかけて、消す。彼氏できたの?とうちかけて、今度は連打して、消す。爪が液晶を叩くカツカツとした音が、私の心を、ハンマーのように打ち砕いていく。
暫くして、私は彼女に向ける言葉を何一つ思い浮かべられないまま、私は彼女をブロックリストに入れた。これ以上一緒に居ても辛いだけだ、どうせ住む世界が違ったんだから、なんて言い訳を、繰り返しながら。

7/15/2024, 11:18:10 AM