画面の上からと下からそれぞれ二回ずつスクロールし、念の為もう一度更新ボタンを押してから、僕は端末を投げ出した。今回も自分の名前はどこにもない。
ベッドに仰向けになると、溜息が出た。これだけずっと落ち続ければ少しは切り替えも上手くなりそうなものなのに、毎回新鮮に地の果てまで落ち込む。
落ち込んでも仕方ない。
書いた文章が、この賞には評価されなかったというだけのことだ。
生き方を否定されたわけでも、人格を攻撃さらるたわけでもない。めげずにまた次を書くだけだ。
でもなあ、今度のは、かなり自信あったんだよなあ……。
スマホから通知音がした。
のろのろと画面をに目をやる。
気分転換に短編を投稿しているサイトにいいねが押されたらしい。
半年ほど前に書いた文章を斜め読みして、SNSを覗いた。通知一覧にメンションが届いていた。
『遅ればせながら読みました。すぐなの惹き込まれて一気に読みでした。主人公も良かったけど、ヒロインに感情移入しすぎて最後少し泣いてしまいました。遅い感想ですみませんが、また読ませてくださると嬉しいです』
コメント投稿は3ヶ月前だった。
フォロワーでも面識があるわけでもない人だから、普段から小説を読むのが好きで、ふと目に止めてくれたのだろう。
波しぶきのような淡い緑のアイコンを見つめていると、小瓶に入れ波にさらわれた手紙が、僕の岸辺に届いたような温かな気持ちが込み上げてきた。
起き上がってパソコンを立ち上げた。次作の構想なら実は山ほどある。この世はまだまだ書いてみたいものだらけなのだ。
そうだ、前回サブエピソード扱いにしたモブ視点で、別の話を組み上げても面白いかもしれない。だとすると、医療関係の下調べが必要か。いや、待て待て。
頭の中であれやこれやと勝手に湧き立つ考えを一旦なだめる。その前にまずはお礼だ。波しぶきの下の返信ボタンを、神聖な気持ちで僕はタップした。
『波にさらわれた手紙』
8/3/2025, 3:24:46 AM