"静かな夜明け"
日が昇らなくなった世界。暗闇の世界。
これは私が昔ひいおじいちゃんに聞いたお話。
昔々、ある日突然いつも通りの日常が崩れたらしい。
この世界はそれまで毎日おひさまという明るい星が昇っていた。それが普通で、それが日常だった。おひさまが昇ることで一日が始まり、おひさまが沈むことで一日が終わる。私には想像もできないが、おひさまというのは世界を明るく照らし、おひさまが昇っているうちは明かりをつけなくても良いらしい。そんなおひさまがある日突然昇ってこなくなった。前日、いつも通り沈んでいったおひさまはどこかへ消えてしまったのだ。世界中が大騒ぎして、様々な人が原因を探った。しかしどんなに賢い先生も、どんなに偉いお国の人も、どんなに聡明な学者さんも、誰一人として原因を見つけることはできず、解決もできなかった。
それでも人々は暗闇の世界へと適応していった。暗いのなら明かりを作って灯せばいい。一日の基準がないのなら世界で定め統一すればいい。明るいことが日常であった世界から、暗いことが日常の世界となった。そうして、もともと明るい世界であったことすら忘れられるほどの時が過ぎていった。
ずっとただのおとぎ話だと思っていたのに、本当の話だったらしい。私が生まれたときから真っ暗だった世界に、ある日突然一筋の光が指した。光は瞬く間に広がっていき、この世界を包み込む。静かに降り注ぐ光のカーテンに人々は声も出せず、ただひたすらに眺めていた。ながいながい夜が明けた瞬間だった。
私はこの瞬間がいかに綺麗だったか、子や孫ができたら聞かせてあげようと思う。
2/7/2025, 8:48:12 AM