望月

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《好きになれない、嫌いになれない》

 誰にでも優しく、常に笑顔を絶やさない。
 時折ふざけた調子で怒ってみせることもあるが、苛立ちを露わにすることはない。
 基本的に穏やかで、爽やかに笑い、仲の良い友人の前では年相応の顔を見せる。
 それが、同じクラスや学校の知人が持つ彼に対しての印象だった。
 家族に言わせれば、それは少し違うだろう。
 だが、そんなことはどうでもいいのだ。
 それも含めて、間違っていると俺は思う。
 あいつの。
 本心を押し殺す微笑みが、それを享受する環境が、どれも、なにもかも。
 好きになれないのだ。
 なぜそうも、自分自身の感情を受け入れずに追いやってしまうのか。
 なぜその犠牲を払わなければ、上手く回せないのか。或いは、そう思いこんでしまっているのか。
 気に入らないのだ。
 だから、だから酷く彼を見て不快になる。
 けれど。
 その歪さを認めないあいつが、それが彼の在り様なのだと受け入れる友人たちが。
 嫌いになれない——なれなかった。
 それが、勝手に大人になろうとする頭に反して足掻いている、彼の心のように思えた。
 精神が未熟だからこそ、未だ自由である筈の彼を縛りたくない友人たちの気持ちも、わかる。わかってしまう。
 いっそ、完全に。
 好きになるか嫌いになれたなら。
 そう願いながら、また、彼の友人たちと話す横顔をぼんやりと眺めながら。
 机に顔を伏すのだ。
 どうせ俺は彼のクラスメイトの一人、なのだから。

4/30/2025, 8:00:13 AM