愛斗🔞インキュバス

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【吹き抜ける風】(※フィクションです)

秋葉原で何気に買ってみたカセットテープ。
それには女性が歌った曲が入っていた。
誰が歌っているのか誰も知らない。
曲名も誰も知らない。
そんな不思議な歌に酔いしれた。

「それ、私の曲なんです。」
ふと聞こえたような気がした。
風を追うようにオレはその声を追いかけた。
「どこへ行くの?」
あたりを見渡しても誰もいない。
「待ってる。」
また聞こえた。

オレはまたカセットテープを再生した。
「夕日色の枯葉たちは扉をたたく音もなく
風を追ってどこに行くのでしょうね?」

聞こえた。

「壊れかけた椅子で眠って
知らない街の夢を見るのです。」

「君は誰?」
オレは問いかけた。
だが問いかけには答えず声は話し続けた。

「あの人は「さよなら」も言わず
悲しい笑顔で遠い国へ行ってしまったの。
でも、旅立った空には綺麗な星が輝いていたわ。」

「それって…」
何かを察したが声は更に続けた。

「でもね青い鳥を逃がす前に
指でそっと羽に触れることができたのだと思うの。
空を見上げて鳥が飛んでるって…」

「…。」
オレは黙って聞いていた。

「あなたもあの人に似た優しい瞳をしてるわ。
私、夜に待ってる。
その時はちゃんと「さよなら」と私に言ってね。」

その声と同時にカセットテープが止まった。
あの子の声が止まった。
あの子の歌も止まった。

窓を見ると綺麗な星空が広がっていた。
オレはこの綺麗な星空を飛びたくなった。

オレは椅子を持ってきて
窓を開けて身を乗り出した。

「今行くね。」

急降下する刹那に声が聞こえた。

「ダメじゃないあなた。
「さよなら」と私に言ってないわ。」

ハッと我に帰った瞬間
頭と体に衝撃が走った。
頭も体も動かない。
オレの目はただ綺麗な空を見上げていた。

広くて高い空。
遠い国へ 旅立つ空には…。












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秋葉原で売られていた謎のテープ

その曲は
『哀しみの枯葉
樹海の落し物』

歌は誰も知らない
『石井 洋子』

11/19/2025, 10:04:34 PM