「天の川が光害に弱いってのは、聞いたことある」
星のお題は「書く習慣」でよく見かける。
「星座」「星空」「星空の下で」「星が溢れる」「星のかけら」「流れ星に願いを」、
そして、今回の「星に願って」である。
星に限らず、「書く習慣」は空のお題が多い。
多重にダブるジャンルとの付き合い方は、ネタ枯渇に深く関わってくると、物書きは考える。
星座は床に落ちた涙に置き換えたし、溢れる星は星型の花畑で代用。流れ星は桜吹雪に願いを込めた。
では今回の「星」は?どうしよう?
「ホシ……犯人?犯人に何か要望?」
ひと、それを迷走という。
――――――
明日の夜は、満月だそうです。
桜吹雪を流れ星に、涙を星座に見立ててきた物書きは、今回、ド直球に「月に願って」のおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、人間と世界を勉強しておりました。
コンコン子狐は稲荷のお餅を、物書きが「書く習慣」アプリを入れて物語を始めた2023年の3月から、ずっと、ずーっと売っておりまして、
1年目に最初のお得意様ができてから、
2年目に「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織への訪問販売が許されて、
そして今年、2025年3月から、新しい販路を開拓する魂胆でありました。
それは、近所に時々出現する、古き大オロチのおっちゃんの絶品おでん屋台。
コンコン子狐、ここで煮込まれている餅巾着に、狙いを定めたのでした。
「おじちゃん。おじちゃん」
コンコン子狐、サンプルのまんまるお餅を1個持って、さっそく商談に向かいます。
「キツネのおもち、つかってちょうだい。
いなりのおもち、つかってちょうだい」
するとおでん屋台のおっちゃん、差し出されたお餅を食べ終えてから、子狐に言いました。
「餅単品としては美味いけれど、ウチのおでんのつゆに合うかと言われると、難しいなぁ」
そして、小さなお鍋を取り出して、おっちゃんのおでんとスープで鍋を満たすと、
「明日まで時間をやるから、このおでんに合うお餅を、作ってごらん」
お代をとらず、それを、子狐にくれてやりました。
「あっ、鍋はやらんよ。明日返しておくれ」
「おもちが、おいしいだけじゃ、うまくいかないこともあるんだなぁ」
コンコン子狐、お餅の味「だけ」は自信があったので、ちょっぴり衝撃を受けた様子。
お餅と合わせるスープとの相性も、考えなければならないことを、よくよく、学習しました。
さて。おうちの稲荷神社に帰ってきた子狐です。
「地球に一番近い星」、まんまるでお餅のようなお月さまに向かって、パンパン、おててを叩きます。
「おつきさま、おつきさま。
キツネのもちつきを、ごらんください」
そして、稲荷神社の神様にも、おててを叩きます。
「ウカサマ、ウカノミタマのオオカミサマ。
キツネのもちつきを、ごらんください」
美味しい、ご利益ゆたかな、おでん屋台のおっちゃんのおでんにも合うお餅が完成するように、
コンコン子狐、星に願って、神様にも願います。
もち米を蒸して、由緒正しい子狐用のウスに入れて、由緒正しい子狐用のキネを担ぐと、
コンコン子狐、多分お月さまのイタズラだと思いますが、こやこやテンションが上がってきまして、
「おぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ペッタンペッタン、ペッタンペッタンペッタン!!
お母さん狐から教えてもらった餅つき歌も忘れて、
パッションおもむくまま、お餅をつきました!
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁぁぁぁぁ!!!」
子狐の情熱は止まりません。
夜の餅つきの音に気付いたお母さん狐が起きてきても、「餅つき歌、ちゃんと歌うのですよ」と言われても、お餅をつき続けました。
「よしっ!!しさく、ひとつめ、かんせー!」
これは、屋台のおっちゃんのおでんに合うかしら。
コンコン子狐、さっそくおっちゃんから貰ったおでんおスープにチャプチャプ、ちゃぷちゃぷ。
ひたして食べてみましたが、
「なんかちがう!!」
一発で何事も上手にいくものではないようで、
お星さまと、お月さまと、それから稲荷神社の神様が見守るなか、2個目の試作にとりかかりました。
星に願って、稲荷の神様に願ってついたお餅は、
コンコン5回目のリテイクで、最高のブレンドと柔らかさと、それからモチモチ具合になったとさ。
2/11/2025, 3:26:35 AM