灯火を囲んで
学校主催のスキー合宿。運動神経は割と良い方だと自負していたから楽しみにしていたけど、人生初のスキーは思いの外難しくて、なんか色々間違えて転んで今は休憩所みたいなところに先生と二人。つまらないなと思いながらぼーっと古びたストーブに手をかざす。すると、不意に引き戸が開き、クラスの色の白いあの子が入ってきた。先生と二、三話して自分の右隣に座り込む。どうやらこの子もスキーが苦手な部類らしい。確かに細いし、白いし、運動なんかとは無縁そう。先生は少しゲレンデに戻るとその場を後にし、二人きりに。何回かみんなと話している時に会話を交わしたことはあったが、二人でちゃんと会話をするのは気まずいな。
「スキー、苦手?なんか意外。」
「うん。なんか難しくて。全然止まれなくて落ちちゃった。」
その子は手袋を外しながら、ふふと笑みを浮かべた。鼓動が早くなるのがわかる。昨日の夜、みんなに吐け吐けと言われて、思わず溢したこの子の名前と盛り上がった室内の様子はこの子は知らないはず。だけど、なぜか何もかもを知っているかのように優しく綺麗に微笑む彼女と、目を合わせられない。灯火を囲んで、二人きりのこのむず痒い空間に耐えられない。
「手、赤いね。まぁ私もだけど。」
そう言ってストーブにかざした手は、先程からストーブに当てていた自分の手よりも真っ赤。その色に目を奪われて動きを止めているうちに、不意に冷たい感覚が右手を覆う。
「はは、あったか。」
悪戯に笑うその細い指先が自分の右手に絡まり、熱を奪う。都合の良い夢でも見ているのかと思う自分を、確かにその冷たさが現実だと伝える。震える手先で、壊してしまいそうな白い冷たさを覆う。ストーブの音だけがやけにパチパチと大きく響いた。
11/8/2025, 10:11:15 AM