小さな世界へ

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 気温が一桁を切っているのに半袖を着出すとんちんかんがそこにはいた。
「ちょっとそれ寒くない?」
「ん?」
 なんなのかよくわからない。そう言わんばかりの顔をしている。いつものその様子に私は溜息をつく。
 彼は私が気になっている人だ。恋愛的に放っておけないのではなく、このまま社会に放り出して生きていけるのか心配、という意味でだ。決して恋愛的なモノは持ち合わせてはいない。
 ようやく言っている意味に気づいたのか、半袖を脱いで長袖を着出す。そして、悪態をつくのだろう。
「そう言うならお前もそうだろ。脚出してるし」
 彼はそういうやつだ。自分の間違いを認めなくないために屁理屈をとなえる。
「へー。じゃあ。もうこの服着なくてもいいんだ」
 あなたのお気に入りの服。男が好きそうな白のワンピース。この時期に着るのは無謀もいいところだ。
「そんなことは言ってねーし」
 目を合わすことなく放つ言葉は震えていた。彼は頑なに認めたくないのだ、自分の負けを。

5/28/2024, 12:04:02 PM