今度セミの鳴き真似をあいつにしてやろうと意気込む。日焼けたオレの腕がべっとりと汗ばむ。自転車を激しく揺らして立ち漕ぎをした。麦わら帽子が脱げて、ゴムが首に引っかかって向かい風に煽られる。
公園の水飲み場ってどこまで出るんだろうとあいつと二人で蛇口を全開にしてみた。思ったよりも高くて二人で見上げる。この暑さにちょうどよく、水浴びができた。近くて遠い入道雲に重なって、虹が見えたような見えてないような。
そんなあの日が好きだった。今思えば青春だった。この夏に、前髪が目にかかるほど伸びきっていたあいつが髪を切った。朝二人で登校しようと待ち合わせ場所で待っていたところに「サッパリしたぜ!」といつもの顔で笑ってやってくる。
背丈が高いバスケ部のこいつ。横に並んで通学路を歩く。俺は身長156センチ。いつもなんだか屈辱的で、次の成長期を待ちわびている。
「小学校の時の夏、覚えてるか?」
「ん? あー、いつの学年かによるけど、それがどうした?」
「いや、ちょっと思い出してな」となんだか訊いた自分が照れくさくてはぐらかす。
「……そこの公園寄ってく?」
自分で言ったその言葉の背徳感にワクワクしている様子のこいつ。
「遅刻すんぞ」
「いいじゃん別に」
「ちょ、おい引っ張るなよ!」
「これは水飲み休憩だ!」
「いや少ししか歩いてねえだろうが! フザケンナ!」
「いいから来い! 道連れだ!」
「道連れって言ってんじゃねえか、やめろ! おおい!!」
そうやって連れていかれる俺と楽しそうに腕を掴むこいつの横を、急いでる様子の二人組の男子小学生がすれ違いで走っていく。懐かしの黄色い帽子を被って。
〈麦わら帽子〉2023/8.11
No.19
8/11/2023, 10:46:36 AM