「私ね、過去に戻れるんだ」
「?」
その日は、友人が亡くなってから四十九日目。
そして、この年一番寒い日だった。
「…知ってるよね。前に三人で話した……」
彼女は笑う。
その表情があまりにも悲しそうで言葉に詰まる。
「………」
「でも、過去を変えることはできない」
声が一段低くなった。
彼女の目元は痛々しく腫れている。
「変えられないんだったらこんな能力要らなかった…」
また一段低くなる。
「……それでも、羨ましいな。僕は君よりもしょぼい能力だから」
笑ってみる。
「全然しょぼくなんかないよ。なんで、羨ましいの?過去に戻ってみたところで何も変わらないのに」
「もう一回…見られるんだろ?生きてる姿が」
「…余計に辛くなる」
そっか、何となく相槌をうってみる。
こんな会話をしているとまた、思い出が溢れ出しそうで、それを抑えるので精一杯だった。
「………未来が、見れたら…良かったのに……なぁ…」
「辛いよ」
「未来が、見えたら…止めることだって出来たでしょ?」
「……無理だよ」
「何でそう言い切れるの?」
彼女の視線が痛い。
「そうだなぁ、ある時僕は、自分が階段から落ちて入院する未来を見た」
「…」
「それからは毎日気を配った。僕の能力じゃ場所や日時が分からないから」
「うん」
「でも、駄目だった」
「……」
「階段を怖がっている僕を見て悪戯好きの同級生がすべてのエレベーターを使えないようにしてしまった」
「…」
「困ってたら、何してんの?って僕を階段まで引っ張っていって、押されたんだ」
「え」
「びっくりしたんだけどホントに一瞬の出来事だった。結局入院」
「……そ…れって」
「未来は変えられない。過去も変えられない」
「……うん」
「でも、それぞれ良いところもある」
「うん」
「…………もしも、この能力が君だったらどうなってたんだろ?」
「……」
言葉を選んでいる彼女を横目に僕は気にせず言葉を続けた。
「あはは、嘘だよ」
「…何処から何処までが?」
「能力が未来ってとこから」
「三人で話した時から嘘を、ついてたの?」
返答に困って髪を搔きむしる。
「だって、未来を見れるのはあいつだったじゃないか」
「それは…」
「能力が被るなんてあり得ない。知ってるだろ?」
「じゃあ!アンタの本当の能力は何なのよ?」
声が裏返っていた。
目には涙が滲んでいる。
「……言わない。言ったら嫌われるかも」
「嫌わない!教えて?」
「寿命が…分かる、能力」
「…今までずっと黙ってたの?」
嘘つき。心の中で悪態をつく。
嫌わないって言ったくせに。
彼女の目には明確な殺意が宿っていた。
「そうだよ」
「なんで?」
「絶対だから。過去を変えれるなら寿命が延びる。未来を変えれるなら寿命が伸びる。困るんだよ」
「こま、る?」
「そう、僕にとっては大問題。僕は」
息を大きく吸い込む。
「僕は、死神だから…。寿命が分かる能力、じゃなくて死神…の能力」
「死神?アンタが殺したの?」
「違うって、死神の役割を果たすんだよ。死んだ人の魂を刈り取って空に飛ばす」
「なんの為に?」
「神様に捧げる為、だと思う」
「それだけ?」
「…これをやらないと僕は死ぬ…し、刈り取られなかった魂はこの世の幽霊とやらになるんだ」
「まに、合わないでしょ?なんで、今生きてるのよ」
「…魂が集められる部屋があるんだ。一ヶ月に一回。空に飛ばしに行く」
「連れてって!」
「無理だよ。君には見えないんだ」
「もしも、もしも私が未来を知ってたら!アンタと友達になんかならなかった!」
そう言うとその場にうずくまって泣き出してしまった。
一つ、ため息をつく。
彼女に近づくと彼女は僕を睨んでこう言った。
「近づかないで!」
化け物を見るような目。
慣れているけど地味にきつい。
友達だった人からの殺気のせいなのかもしれない。
でも、最後に一言だけ言いたかった。
「もしも未来が見れるなら、僕はきっと君とは出会えなかった」
ーもしも未来を見れるならー
4/19/2024, 12:29:32 PM