朝起きて。
愛用の腕時計を見ると、時計の針が凄まじい速さで逆回転していた。
「これはッ……!?まさか!世界の時間が巻き戻っているとでもいうのッ??!!!」
なんとなく漫画みたいに大袈裟に叫ぶと、腕時計から返事が返ってきた。
「そんなわけあるか」
「えっ」
「他の時計を見てみろよ」
他の時計は、普通に動いていた。
テレビをつけると、いつも通りの朝のニュース。
昨日試験がありました。
未明の火事は鎮火しました。
詐欺の犯人捕まりました……。
「別に時間は巻き戻ってないね」
「言ったろ、おれだけだって」
ぶっきらぼうな私の腕時計の針だけが、相変わらずぐるぐると逆回転していた。
「……いろいろ気になることはあるけどさ。まず、なんであなただけが逆回転してるんだろ?」
「……そうだなあ。もしかすると、どこかの誰かが『時計の針を巻き戻したい』って、強く願ったんじゃないか?」
「えぇ……その人が望んだのって、こういうことじゃなくない? しかも何で私の腕時計なのさ」
「知らね。単に、願いを聞いたやつが適当だっただけだろ」
私は釈然としないまま、でも遅刻をする方が一大事なので、普段通りに家を出た。
その日ふと気がつくと、時計の針は元通りに戻っていて、それ以来腕時計に話しかけても返事が返ってくることもなくなった。
『時計の針』
2/7/2024, 9:59:25 AM