保志

Open App

 『雪なんて、待つものでもないだろうに。』
 
 どこまでも白が続いている。俺は白いなぁくらいしか思わないけど、隣の少女はそうでもないようだ。
 「これが、ゆき…………」
 “雪”という言葉をやたら丁寧に発音して彼女は微笑んだ。
 それもそうか、彼女にはこれが初めての雪なのだ。
 俺には冷たいだけの雪のひとひらだって、彼女からしてみれば余程物珍しく映っているかもしれない。
 俺がぼんやりと突っ立っている横で、きゃあきゃあ楽しそうにはしゃぐ姿は、なんというか。
 「…………つまらないな」
 暇を持て余して足元の雪を踏み固めながらぼやくと、彼女がようやくこちらを向いた。
 鼻を赤くして、髪には雪がほんのり積もっている。
 「寒いのは嫌いですか?」
 「べつに嫌いという程じゃない。…………そろそろ室内に戻らないとまた風邪引いて寝込むんじゃないか? あんたの看病を任される俺の身にもなってくれ」
 俺の肩をすくめる仕草に、彼女は不機嫌に鼻を鳴らす。
 「そうやってすぐ拗ねるのは良くないですよ。好きな子に嫌われちゃっても私、知りませんからね」
 もう嫌われた後なんだがな、という返事はしまっておいた。 そんなにこの景色が面白いのだろうか。
 俺には到底理解できない。
 …………。
(雪/禅,李里)

12/16/2021, 8:58:10 AM