愛し合う二人を、好きなだけ

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小説
迅嵐※友情出演:生駒



「好きなところ?」

多分今、俺は隊服と同じくらい真っ赤になっているに違いない。

生駒との模擬戦で課された罰ゲーム。それは『負けた方が迅に自分の好きなところを聞く』というものだった。生駒は随分と勝てる自信があったらしく、負けた後に聞こえてきたのは「これで素直になれるんやないか」という一言。付き合っていても素直になれていないことは、気の置けない友人にはお見通しだったという訳だ。

「……何かあったの急にそんなこと聞くなんて」

「うっ……いや……別に……」

罰ゲームという事を見透かされている気がして少しだけ居心地が悪かった。でも聞きたかったのは嘘では無い。常々知りたいと思っていたのだ。

「…どこが好きで付き合ってくれてるのかなって」

「ふぅん」

ちらと横を見ると、こちらの会話が聞こえるか聞こえないかのギリギリな距離で生駒が見ていた。普段から表情の起伏が乏しい友人は、オーラから言いたいことが伝わってくる。『頑張れじゅんじゅん!』……人の気も知らないで!

「…いいよ教えてあげる」

意地の悪い笑みを浮かべた迅が顔を寄せてくる。驚いた俺が一歩下がると、迅もまた一歩歩み寄る。何度か繰り返すと、背に壁が当たった。しまったと後ろに目をやり視線を戻すと、迅の空色の瞳と視線がぶつかる。

鼻と鼻が触れ合いそうな距離。この時間帯は人が通らないとはいえ、絶対では無い。それでも好きな人に迫られ抵抗する事など出来ず、俺は固く目を瞑る。

ふ、と小さく笑う声が聞こえたかと思うと、耳元で誰にも聞かれないように迅が囁く。

「好きなものを目にすると輝くように笑うところ、太陽の下でコロと楽しそうに散歩してるところ、……おれの前では恥ずかしがり屋なところ」

「んえっ」

その後も次々と出てくる『好きなところ』のオンパレードに、俺は茹だる顔を隠しながら受け止めることしか出来なかった。

「どんなおまえもぜーんぶ好き」

「か、勘弁してくれ…」

これでは罰ゲームではなくご褒美だ。

頭の中に生駒の声がトリオン体の通信機能を通して聞こえてくる。

『人払いしといたるからな』

友人の気遣いに小さく頷いた俺は、顔から手を離し、迅に躊躇いながらも抱きついてみる。迅はこの未来が視えていなかったらしく、ぴくりと肩を跳ねさせた。きっと今の俺の反応に集中しすぎていたのだろう。

「……生駒が、人払いしてくれるって」

ぎゅっと抱きしめる腕に力を込めると、迅も俺の背に腕を回してくる。

……生駒のおかげで、少しは素直になれた気がした。俺は心の中で、気を使ってくれた友人にナスカレーを奢る計画を立てたのだった。




後日、生駒と迅の会話にて(トリオン体の通信)

『迅〜俺の好きなところは〜?』

『嵐山の可愛いところを存分に引き出してくれるとこ〜』

『もうちょい好きなところ無かったん?』

11/25/2024, 11:53:45 AM