作家志望の高校生

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「おはよ!」
目が覚めて早々、喧しい声が響いた。隣に眠っていた弟が、どうやら先に起きていたらしい。
「……うるせぇな…………はよ。」
体を起こして伸びをすれば、背骨がボキボキと軽快な音を鳴らした。
今日は何も予定は無かったはずだ。まだ冷蔵庫に食料も残っていたし、買い出しにも行かなくていい。合法的な引きこもりが可能な素晴らしい1日である。
「あー……映画でも見るか。」
立つのも面倒で、ベッドの上から上半身を乗り出してリモコンを手に取る。テレビをつけると、神妙な顔をしたニュースキャスターが、気の滅入るような事件の話ばかりを連ねている。
さっさとサブスクの配信アプリに入って、受動的に、おすすめ欄の映画を再生し始めた。陳腐なホラー映画は、安っぽい血糊と作りものの悲鳴がうるさくてかなわない。
「ねー、兄ちゃーん……これ変えよ?違うのがいい。」
弟までそう言い出す始末。結局冒頭5分で視聴を諦めて、弟の好きなアニメの映画を見ることにした。
上がる血飛沫も、悲鳴も、三次元のものでないだけで急にあの安っぽさが薄れる。耳を裂くような甲高い声も、可愛い女キャラの顔に合わせれば心地よいものだった。
「……兄ちゃん。」
ふと弟が呼んでくるので、ベッドに寝転んだまま顔だけを向ける。弟は何かをずっと口籠っていて、一向に口を開く気配が無かった。
「……なんだよ。言いたいことあんなら早く言え。」
弟はまた気まずそうにこちらを見上げて、視線を下に俯かせる。映画はそれなりのクライマックスシーンに突入し、壮大なBGMと共に平面的な死闘が繰り広げられている。金属同士の触れ合う音が、やけに大きく、リアルに響いた。
「……外、どうなってるの。」
俺は思わず顔を顰めた。せっかく忘れられていたのに。
外からは、アニメに負けないくらい、赤と黒ずんだ茶色に汚れてぐちゃぐちゃだった。3歩歩けば死体に当たって、はみ出した内臓を踏み潰す感触が靴裏越しの爪先に触れる。あの妙な光が空から差した日から、この街は変わってしまった。おかしな化け物が街を闊歩し、人を見つけては遊び殺して去っていく。誰も彼も、外に出なくなった。店も何もがひっそりと忍ぶようになって、買い出しの時は皆まとめ買い。貨幣より、物資の方が価値の上回った街だ。買い物というより物々交換に近い。
せっかくいい休日になりそうだったのに、と内心若干萎えながら、分厚い遮光カーテンを締め切った窓を少しだけ覗いた。
「……いつも通り。四脚型が1体と水母型が2体だって。」
弟は平然を装って無関心そうに生返事を返したけれど、その体が僅かに強張っていた。
静かに狂ったこの街からの脱出は、まだまだ叶いそうにない。

テーマ:現実逃避

2/28/2026, 8:17:07 AM