思い出

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「今日で一年、か。」

片手にお猪口を持ち、天井を見上げて、親戚のおじさんがしみじみと呟いた。
私は俯き、その現実から逃げる。

「最後迄、明るい人だったわね。良い人だったわ。」

空になったグラスにビールを注いでいた、親戚のおばさんがそのおじさんの横に座って、しんみりとする。

「そうですねぇ。皆さんにはとても主人が、お世話になりました。しかも、一年経っても此れだけの人に、集まっていただいて、本当に、ありがとうございます。」

祖母が、そう言って集まった人達に頭を下げた。
それを見た親戚の人達は、口々に、

「まだ60代入ったばかりだったでしょう。お若いのに、
残念だわ。」

「あの人が亡くなるなんてなぁ。勿体ないなぁ。」

「亡くなってもう一年だなんて、本当に早いですねぇ。
お一人で、今もまだ大変でしょう?無理なさらないでくださいね、本当に。」

祖母に慰めの言葉を掛けた。
私は、皆が居る場所から、気付かれない様にひっそりと、
逃げ出した。

私は、逃げ出した後に、亡くなった祖父の部家に向かった。

〔ねぇ、じいちゃん。酷いよね、皆さ。今日になって、
一年だとか、寂しいとか言ってさ。〕

内心に想っていた事を言葉にしていると、涙が溢れてくる。ポタリと、一滴畳に零れ落ちると、止まらなくなっていく。

〔私なんてさ、じいちゃんが亡くなっちゃった時からずっと、泣いて過ごしてたんだよ。それで、一年が経つって位になって、やっと。やっと、立ち直って来たのに。〕

泣き叫ぶ様に、想いの儘に言葉を放つ。

この涙が、怒りから来るものなのか、寂しさから来るものなのかすらも分からない。

只々、絶叫する。


大体、一時間弱泣き叫んで居たのだろうか。
居間を出た時間から、おおよその時間が推測出来た。

ある程度冷静になって、ふと思い出した事がある。
祖父が亡くなる直前に、寄こしたラインがあった。

その内容は、

「またこいよ」

とだけ打ってあった。
スマホを買ったばかりの為に、この五文字を打つのに
どれだけの時間を要したのだろう。
それを考えていると、また涙が溢れそうになる。

このラインが来た翌々日には、もう危篤状態で、
その次の日には、亡くなった。

私は、このラインが、開けない。
届いた時以来に、一度も開けていない。

〔うん、またね〕

そう返信した後に、会いに行けなかった、なんて後悔が、胸の奥にじわじわと広がる。

「またこいよ」

その一言が、怖くて開けない。

もう会えないじいちゃんに、また会えるかもって、
どうにもならない程に期待をしてしまう。
そして、軽い気持ちで、またね、なんて送った自分への
怒りが、後悔が永遠と胸に溢れて、溺れそうになる。

9/1/2023, 11:20:41 AM