John Doe(短編小説)

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もう、何も見えないが、声だけは聞こえる。
君たちの声だ。
そんなに慌てる必要はない。
私は、きっと助からないだろう。
いいんだよ、これでいい。
今なら、ぐっすりと眠れそうなんだ。
君たちに会えてよかった。
君たちの声が聞けてよかった。
私は、幸福だ。

思えば、私は獣のような男だった。
酒。暴力。女。
本当にどうしようもない男だった。
それでも、こんな私を愛してくれた君たちが。
私のために泣いてくれている。
ありがとう。
でも、泣かないでほしい。
私はほんの少しの間、眠るだけだから。
永遠の別れではないのだから。

心地よい闇が降りてくる。
それは、少しずつ私の身体を包んで。
上昇する。

8/19/2023, 7:19:40 PM