花屋さんによる。今日は彼の命日だ。
花を見ていると、あまり見慣れない花の名前が目に入ってきた。
「勿忘草(わすれなぐさ)」
その花が綺麗で、じっと見ていると、店員さんから声をかけられた。
「勿忘草、綺麗ですよねぇ。何度見ても綺麗で、私の一番好きな花なんですよぉ」
おっとりとした喋り方で話しかけてきた店員の話を、勿忘草から目を離さずに聞く。
「あ、あと、花言葉も綺麗で、好きなんですよねぇ」
「…なんて、言うんですか?」
花言葉。その言葉を聞くと、気になってしまう。
「えっとぉ、『真実の愛』、『誠の愛』、あとはぁ…あ、『私を忘れないで』っていうのもありますよぉ」
『私を忘れないで』と言う言葉が、天国にいる彼への、私の大好きな彼への想いと重なる。
「…これ、ください」
「はぁ〜い。どなたかに送られますかぁ?」
「彼の、お墓参りに行こうとしてまして。あ、あともう何本か見繕ってください」
それを聞いて、少し悲しそうな顔をしたあと、花を選び始めた。
「…大好きだったんですねぇ、彼氏さんのこと。そんな人に愛されて、きっと幸せだったんでしょうねぇ…」
「…どうですかね、そうだといいのですがね」
そして、カサカサという、ビニールで花を包む音が、静かな、いろんな花の香りがする店内に響く。
「…お待たせしましたぁ」
「綺麗…」
とても綺麗に仕上がった小さな花束。彼にちょうどいい。穏やかな明るい色が、勿忘草の儚い色を引き立たせている。
まるで、あいつみたいな雰囲気のする花束だ。
「…私も、人が泣いてくれる花束を作れるようになったんですかねぇ…」
そんなことを呟いたので、私は、泣きそうになっていたのを誤魔化すように、「ありがとうございました。またきます」といって、お金を置いた後、店を後にした。
澄んだ青空、だんだんと暖かくなっている空気。お墓の間の道を、ゆっくりと進む。
彼の寝ているお墓の前にしゃがんで、丁寧に花を生ける。
「…私を、そっちでも、来世でも、その次の世界でも、忘れないで。なんて、わがままかな」
ひとりで呟く。手を合わせて目を瞑る。ぬるい風が、私と彼の間を通り過ぎる。
優しく包み込むような風に、彼の存在を感じた。
目を開けても、君はいないし、私の独り言に答えてくれるわけでもない。もう一度、目を瞑ってから、「またね」と一言。彼に背を向けて歩き出した。
2/2/2024, 11:23:42 AM