「要するに、恋愛にうつつを抜かしたあまり、仕事をサボったバカップルの話ってわけだ」
それだけ返して、君は淡々とマグカップに口をつける。ラップトップPCから目を離さないまま。
「まぁ、身も蓋もない言い方をするとそうなるかもね」
空になったマグカップがそっと回収されていることに、君は気付いているだろうか。
「…ん、トイレか?」
「うん、そんなとこ」
やっぱり、そこまでは気付いていないらしい。でも、かえって都合が良いかもしれない。
キッチンでマグカップと交換したのは、冷えたビールを注いだ、保温保冷ができるタンブラー、2つ。
「そろそろ、星を見にバルコニーに出ようか。お仕事、もう終わってるんでしょ?」
隣まで戻ってそう声を掛ければ、君の目のきらめきが、驚きで大きくなった。
「なぜ、分かった」
「私がそばを離れたことには気付いたから」
本当に集中している時の君はいつも、そういうことすら気に留めないからね。
「さっきまでは何をしてたの?」
さまよった視線が捉えた液晶画面は、チラチラと人工的な光を放っていたが、やがて君の瞼と連動するかのように閉じられた。
「……作業する、フリをしていた。声を掛けるタイミングを、計算しながら」
ああ困ったな、上がった体温でタンブラーの中身を温めてしまいそうだ。
なんて君に言ったら、まず体温計で私の体温を計り始めそうだけれど、そんな君にこそ、君だからこそ。
「それなら、私に教えてくれないかな。七夕伝説は知っていても、七夕の星空のことは詳しくないんだ」
7/7/2023, 12:13:31 PM