春の風が吹く。
ふわりとカーテンが舞い、あたりには陽の光が散らばる。
「わたし、白川くんと結婚しようと思ってたの。」
ルームシェアをしている恵子は突然そんなことを言い出し、あまりに突然だったので、私は頭が追いつかなかった。
「本当に?嘘じゃなくて?」
「本当よ。今日はエイプリルフールだけど、嘘じゃない。」
恵子は飄々としているところがあるから、素知らぬふりをして、秘密の一つや二つは持っているだろうと思ってた。
だけど、まさか同じゼミだった白川くんと付き合っていて、しかも結婚まで考えてたなんて。
「驚いた。そんなそぶり一度も見せなかったから。」
「そうね。見せなかったわね。」
恵子はそっとカーテンを開けて、窓の外を見る。
「でも、結婚するなら早めに言って欲しかったな。4月からとなると引越しも大変だし」
「結婚はしないわ。するつもりだったけどやめたの。」
ふと、先ほどの恵子の話を振り返る。確かに思ってただけでするとは言ってなかった。
「たしかにそうだね。でも、なんで?」
「自分に嘘をつきたくなかったからかな。」
窓の外では子供達が駆け回っている。
恵子はそれを微笑ましそうに見つめながら、淡々と語る。
「今、結婚したらわたしのやりたいことができなくなると思ったの。
わたし、もっと遊びたいし、いろんな無茶をしたい。
でも、結婚したら何かを我慢しないといけないでしょう?」
「専業主婦になるってこと?」
「そうじゃなくても、我慢は必要よ。前まではそれでいいんだって思ってたけど、やっぱり違うって思っちゃった。」
「だから、やめたの?」
「ええ」
ついでに別れちゃったわ、とコロコロと恵子は笑う。
何かに縛られるのが嫌いな彼女らしいと言えば彼女らしい話だ。
まあ、私たちの人生はこれからだ。
自由にのびのびとやっていけばいいんだ。
ただ、私は恵子の親友としてこれだけは聞かなければならなかった。
「ねえ、恵子」
「なあに?」
「後悔は、してない?」
恵子は少し驚いた様子でこちらをみてクスリと笑った。
「もちろん!」
春の風はいつのまにかやみ、あたりは陽の光で満ち溢れている。
今日は4月1日。
エイプリルフールだ。
4/1/2023, 11:42:10 AM