燈火

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【空模様】


今朝の天気予報では、降水確率20%と言っていたはずだ。
それなのに、このどしゃ降りはなんだ。幻覚か?
まったく、これだから予報は信用ならない。
仕方なく僕は鞄から折りたたみ傘を、……あれ、無いな。

思い返せば最近、雨の日が続いている。
僕の記憶が正しければ、一昨日の夜からずっと雨。
止んだと思えば降り出して、強まったり弱まったり。
そうだ、昨日も帰り際に大雨で使ったのだった。

朝は焦っていて、乾いた傘を持ってくるのを忘れていた。
家を出る時は晴れていたから必要ないと思っていたし。
ああ、運が悪い。僕は会社の前で立ち尽くした。
早く帰りたい気持ちは山々だが、鞄が濡れるのは困る。

雨の弱いタイミングを見計らって走るか。
駅はそう遠くないので、ずぶ濡れにはならないだろう。
僕は覚悟を決めて、止む気配のない雨を眺めた。
「あの、お困りですか?」彼女が話しかけてくるまで。

見覚えのある女性。確か、総務課に属していたような。
「お構いなく。雨が弱まれば帰ります」
端に寄っているのだから邪魔ではない、と思う。
「よければ使ってください」手には折りたたみ傘がある。

「あなたが濡れるでしょう。僕のことはいいですから」
いいえ、と彼女は鞄から折りたたみ傘を出して言った。
「もう一個あるので気にしないでください」
可愛かったのでお昼に買ったんです、と彼女が笑う。

では、と言葉に甘えて無難な柄の傘を借りた。
おかげで、ほとんど濡れずに帰ることができた。
家に着く頃には雨も弱まり、晴れ間すら覗いている。
返しに行かないとな。なんだか心まであたたかい。

8/20/2023, 9:07:26 AM