運命の人だったのに、どうして幸せになれないの
そう、さめざめと泣く彼女を慰めた。とはいっても言葉はかけない。ただ、機械的に相槌を打ち、震える背中を時折撫でてやるだけ。
もし言葉をかけようものなら、傷つけてしまうと判っていたから。
運命だと思っていたのはお前だけ。その証拠に周りはみんな止めたじゃないか。
不思議なことに、彼女も、世の少なくない女性が、なぜか自分は男を見る目があると信じて疑わない。傍から見たら一目で「ああ、こいつは人間のクズだ」と判る男に、どうしてか引き寄せられてしまう。
そして、こんな人だと思わなかった、結婚するまで本性を隠してた、なんて言うのだからお笑いだ。
いやいや、周りからのやんわりとした忠告も、率直な警告も無視しておいて何言ってんだ。
そいつのクズさが自分以外の誰かに向かっていたときは男らしい、頼りがいがあると言い、自分に向かってはじめて目が覚める。
それに気づかない限り、幸せなんて見つけられない。赤い糸の正しい行き先も判らない。
でも、言葉はかけない。
ちらちらと伺い見る目に気づかないふりをする。
彼女が欲しいのは共感と、同情と、慰めと、陶酔。決して、二の轍を踏まない教訓ではない。
僕の小指にもあるという糸の先が彼女でなくてよかった。
あの頃、悲しさ悔しさに泣いていた僕にこそ慰めの言葉をかけたい。
そんな糸、切れてしまって正解だよ! とね。
6/30/2024, 6:03:29 PM