「ふふふ、やっと始められる」
私は誰もいない部屋で、一人高笑いする。
目の前にあるのは、藁人形、五寸釘、そしてハンマー……
私は呪いの三点セットを前にして、喜びを隠すことは出来なかった
私は今日、夫を殺す。
長い結婚生活では色々あった。
時にはいちゃついたり、憎み合うこともあった。
しかし試練を乗り越えるたびに、私たちは絆を深めた。
でもそんな事は関係ない。
夫は絶対にやってはいけないことをした。
私は絶対にそのことを許すことなく、報いを受けなさせないといけない。
自然とハンマーを握る手に力が入る。
「くらえ、プリンの恨み!」
力を込めてハンマーを振り遅下ろす。
部屋に響く、『カーン』という金属音。
そして一瞬の静寂の後、『パリン』と夫の使っているお気に入りの湯呑が真っ二つになる。
コレが割れたという事は、夫に何かがあったという事。
やったわ。
プリンを食べられて早一週間。
ようやく恨みを晴らすことが出来た
あの人が悪いのよ。
私が大事に取っておいたプリンを食べるんだから。
でもこれで終わり。
さて勝利の美酒ならぬ、勝利のプリンでも食べようかしら。
私が勝ち誇っている時、私のスマホが着信を知らせて震える。
着信先の夫の名前を見て、ほくそ笑む
私はスマホを取って、通話ボタンを押す
「もしもし」
『酷いじゃないか』
スマホから聞こえてくるのは、呆れたような夫の声。
いむ、想像通り呪いは降りかかったようだ
「食べ物の恨みは怖いのよ」
『だからといって、呪殺する事は無いじゃないか。
いくら僕が『死んでも生き返る』チートを持っていると言っても、限度があるよ……』
「いいじゃない、減るものじゃないし」
『前もそう言って僕を殺したよね。
どんどん僕の命の価値が減ってきてる』
「そんなことより」
『誤魔化さないで』
「何が起こったのかしら?」
『はあ……
どこからともなく鉄骨が落ちてきて、そのまま潰されたよ。
僕じゃなかったら死んでいたところだ』
「そんなことあるのね」
『今回ばかりは反省してよ。
他の人も巻き込まれそうになったんだから』
「分かった。
次呪うときは連絡するから、人気のない場所に行ってね」
『何も分かってない……
あ、ちょっと待って』
そういうと、夫がスマホから遠くなる。
電話口からは誰かと話している雰囲気だ。
相手は……
女性?
『巻き込まれそうになった人がいる』と言ってたけど、もしかしてその人を助けて惚れられたか!?
なんてこった。
まさか、私の呪いでラブロマンスが始まろうとは!
私が愕然としていると、夫がスマホに戻って来た
『ゴメン、それで話の続きだけど――』
「アナタ、今から呪うから人気ない場所にってね、そこにいる女と一緒に。
浮気は許さないから」
11/23/2024, 3:24:30 PM