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「答えは、神様だけが知ってるのね」
これは、隣の席の彼女の口癖だ。

はじめて話しかけられたのは、席替えをして隣になってすぐのことだった。
「ねぇ、どうして空は青いのかしら」
空?
唐突な問いに思考が停止する。
そういえば、考えたこと無かったな。
……はて……。
そのまま3分くらい経っただろうか。彼女は狼狽して何も言えない僕に向かって口を開いた。
「答えは、神様だけが知っているのね」
そして彼女はぷいと前を向く。
……怒らせてしまったのだろうか。
「ごめん。何も言えなくて」
つんとした横顔に謝罪を投げかける。
「いいのよ」
彼女はこちらをチラリと見て、微笑んだ。



それから彼女は毎日のように、僕に質問を呼びかけるようになった。
「ねえ、どうして天気予報って外れるのかしら」
「ねえ、どうして昼になると眠くなるのかしら」
「ねえ、なんで蛍光灯って白いのかしら」
「ねえ」から始まる彼女の問いに、僕はその都度頭を悩ませた。
そうして、その会話たちはいつも、
「答えは、神様だけが知ってるのね」
そんな彼女の言葉で終わっていくのだ。
僕はそれがどうにも悔しくて、なんとか答えを紡ぎ出そうとした。けれど、いつもピッタリな解答を導きだせないうちに彼女は終わりの言葉を告げる。
申し訳なかった。
なんとか彼女に答えを教えて、喜ばせたいと思った。
僕の中に芽生えた新しい感情にすら答えを出せないのだから、彼女の難しい問いに答えを出すのなんて、
きっとずっと先の話になるのだろう。



「ねえ」
ある日の帰り道。
少し前を歩いている彼女の言葉に身構えた。だが、
「どうして、あなたは毎日私の問いを真剣に考えてくれるの?」
今日はいつもと少し違っていて、
「煙たがらずに毎日毎日、難しい顔をして考えてくれる。必死になって、考えてくれるの?」
僕はどうしてか、すぐに答えを出すことができた。
「それは、僕が君を好きだからだよ」
僕の問いに彼女が振り向く。
そして、真っ赤な顔で笑った。

その日、僕ははじめて彼女に答えを言うことができたのだ。



「もし僕が、さっきの君の問いに答えを出せなかったらどうするつもりだった?
 また『神様だけが知ってるのね』って言った?」
「ううん。待つつもりだった。
 それが何日でも、何週間でも、何ヶ月でも。

 だってきっと、
 この答えを神様は知らなかったから」

7/4/2023, 1:36:35 PM