奥女中の一人が、あの娘(こ)に縋って泣いていた。
はて、他の者なら好いた男を奪い合った末の修羅場にみえなくもない。が、あの娘(こ)に限っては無い話だ。
それに何だか様子がおかしい。
『おお、遂にやりおった!』
城主の覗きに付き合わされている状況もおかしい。
女中は涙に暮れて座り込み、あの娘(こ)の袴を掴んで顔を埋めている。十中八九は目を逸らす有り様なのに、この殿は何をやってるの?
『あの女中は近々、誰ぞに呉れてやるゆえ心配するな。』
近侍が数人やって来て女中の肩を支え、その内一人があの娘(こ)に付き添って去っていった。
残るは訳知り顔の殿ばかり。恐れながらと説明を求めると、知らんのか?と束の間呆れ、にたり、と人の悪い笑みを浮かべる。
『あの女中、あやつに懸想して一夜の情けを求めておったのよ。』
えっ?! 抱いてくれって?!?!?!
女人が、女の子に? イヤイヤ奥ではそういう事もあるとは知っているし、あの娘(こ)はいかにも男装の麗人という風だけれども!!!!!
薔薇は薔薇は気高く……いや百合か、などと混乱しながら急いで詰め所へ戻り、部下に報連相を問い質す。
面の皮の厚い(面一枚分!)部下は、まさかご存知ないとはと素っ惚け、
『恋敵に不自由はしませんぞ。腕の見せ所ですな。』
と、宣った。冗談じゃないよ!!!!!
【涙の理由】
10/10/2023, 1:44:51 PM