東雲 陽

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二人ぼっち

 ──世界が、嫌いだ。
 歩いてきた道のりに禄なものはなかった。強制された感情、押し付けられる理想、平気で人を踏みにじる輩。その他反吐が出るような「普通」等々。
 辛うじて持っていた灯りはどこかの曲がり角で捨ててしまった。見通しの悪い悪路に辟易しながら同時に何も見えないことに安堵してい自分がいる。とうに外れた「正解」の道が時折交差して、その度に少し惨めな気持ちを覚える。選んだのも進んでるのも己だと言うのに。
 「こんばんは」
 暗がりから、細い声がした。マッチの灯りがぼうっと揺れてすぐに消える。少しだけ見えた相手の瞳は美しかった。
 「どうして、こんな場所に」
 「どうしてでしょうね」
 「ここはあまりよくない」
 「知ってます」
 「それなら」
 「帰り道がある?」
 ──答えられなかった。どこまでも人間らしい押し問答は久しぶりで、少しだけ高揚した。どんな理由であれ、この場所に話のできる生命がいたことはない。透き通る瞳の奥に隠されたモノを知りたくなった。「同じ」なのか「似ている」のか。それとも「違う」のか。気がついたら言葉がこぼれ落ちていた。
 「良ければこの先、一緒に歩きませんか」
 「稀有な人。でもいいですよ、飽きるまでついてったげる」
 灯りも持ってないの、と笑ったソイツはマッチを1箱こちらに差し出してきた。
 「束の間の光は何かと便利だから」

 ふいに、前方から明るい声が聞こえてきた。白くて明るい道が交わっている。ガードレールの先を通る人々はこちらを見もしない。人々の笑顔が全て仮面に思えて、黒いモノが胸の奥にたまる。
 「気持ち悪い」
 口に出したつもりはなかった。だけど、聞こえてたはずなのに隣は何も言わなかった。
 「……ごめん」
 「何が?」
 沈黙に耐えかねて──或いは正しいコミュニケーションを思い出そうとして──謝罪をすれば、想定外だとでも言うような声が返ってくる。
 「他人は他人ですよ」
 それはどこまでも冷たくて固い響きだった。

 「もし、帰り道が見つかったら」
 しばらくの沈黙の後、先程の話がなかったかのように隣が言う。
 「ちゃんと帰ってくださいね」
 「嫌だ」
 「なんでですか」
 「初めて、居心地がいいと思ったから」
 「……」
 「一緒に歩きたい」
 「……」
 「だめ?」
 馬鹿なんですか、と言う呟きは聞こえなかったことにして誤魔化すようにマッチに火をつける。
 薄暗い火のもとに晒された相手の目は、やっぱり綺麗だった。

3/22/2026, 6:08:17 AM