夜鯨

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通り雨
ぽつ、ぽつ、ぽつ
肌にあたる冷たい感触。少しづつ感覚が短くなり身体中を濡らしていく。雨から逃げるように走り去る人、傘をさし人を縫って歩く人。雨に濡れ体を冷やす小さな存在に誰も目を向けない。
少しづつ小さくなる歩幅、あるか足取りは重くなり大きな水たまりの真ん中でしゃがみこんで動けなくなってしまった。茶色い泥だらけの水たまりの中じっとしていると沈んでしまうのではないかと思ってしまう。
ザーザーと自分の肌を叩く雨の音。この雨の中ひとりぼっちで取り残されたみたいで少しさみしい。そんなことを考えていたら、先程まで冷たかった雨や水溜まりの水がぬるくなっていく。
「こんな所まで出とったんか」
見上げれば怖い顔がこちらを見ている。その後ろでは鈍色だった空が青く輝いていた。
「次は必ず声をかけぇ」
「うん」
道の水たまりには空が落ちていた。

9/27/2023, 4:48:22 PM