望月

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《喪失感》

 なにか明確に、喪ったものはない。
 誰も死んでいないし、特別なことなんてなに一つとしてなくて大丈夫だ。
 それなのに、どうして。
 時間を無駄に消費したから?
 無駄とわかっての行動を繰り返したから? 
 その生産性のない言動に飽き飽きした?
 いや、きっとどれでもないのだろう。
 特別なそれはなくて。
 理由も、自分ですらわかっていなくて。
 だからこそ余計に苦しくなるのだろう。
 誰か、埋めてと。
 この喪失感を埋めてくれないかと、人恋しさに、また時間を解かすのか。
 それが負のループになっているのかもしれない、と思える。
 けれど、それがタチの悪い話で。
 抜け出せないから、苦しい。
 辛いのに、繰り返す。
 望んだ結末は当然なく、また空虚な時が過ぎてしまう。
 そしてそれが、喪失感を運んでくる。
 夜になると特に酷くて、訳が分からなくなって時間だけが消える。
 眠れば全てを忘れられる?
 どうせ目覚めれば、また思い出す。
 こんな時にどうすればいいのだったか。
 大丈夫だと、口にするのだったか。
——ああ、そうか。忘れていた。
 こんな時にどうすればいいのか、教えてくれた彼の人を。
 不安を共有してくれた彼の人を。
 言葉の意味を改めて教えてくれた彼の人を。
 とうの昔に喪っていたのだった。
 疎遠になっただけ、とは言えない。
 彼の人の日々に存在できていないのだから、それは。
 互いに喪ったも同然だろうから。 
 特別喧嘩をした訳でない。
 ただ忙しくて会えないまま、離れただけだ。
 そう、それだけ。
 それだけのことで、人は喪失感に苛まれる。
 きっと、あなたも。
 特別な理由なんて必要ないことに、今、気付けるだろうから。
 喪失感にしろ他のなににしろ、人はそう多くの理由を必要としないでいいのだから。
 苦しい時に泣いて、辛い時に涙が溢れて、壊れかけて涙が頬を伝った時。
 理由もなく傍に誰かがいてくれることを、嬉しく思ったり安心する。
 それと似ている筈だ。
 喪失感も、人の感情の一つなのだから。

9/10/2024, 2:49:48 PM