Ryu

Open App

故郷の風は心地良く、山の方から吹いてくる。
視界いっぱいに田園が広がる一本道を、ゆっくりと家族で散歩する。
この場所には、GWの喧騒などない。
あるのは、この場所で暮らしていた頃の懐かしい記憶と、ここを遠く離れた場所で家族を築き生活していることに対する、漠然とした中の一抹の後ろめたさだけ。

連休のうちの二日間だけの帰郷。
仕事や家族の都合でこれが精一杯。
子供達は、普段との環境の違いを楽しんでいる。
取り立てて実家の両親との会話が弾む訳でもないが、久し振りに会えたことには違いなく、まずは近況報告を。

地元に残った友達の一人は、今年に入ってまもなく、脳梗塞で入院したという。
今年の田植えは大丈夫なのか、といらぬ心配をしてしまう。
奥さんが子供を連れて家を出ていってしまって、男やもめの生活をしているという友達の話も聞いた。
皆、大変そうだ。
でも、彼らは今もこの場所に根付いて生活している。

遠く、飛行機雲。
道端の雑草の中にも、ハッとするほど綺麗な花を咲かせているものがある。
そこに、小さな生き物たちが息づき、ただただ命の連鎖を繋げている。
これが私の故郷だ。命を与えられた場所だ。
ここで生まれ、家族に支えられて、幼い時代を過ごしてきた。
不安な心とランドセルを抱えて、この一本道をトボトボと歩いたこともある。

娘が道端の花を指差し、
「これ、なんて花?」と聞いてくる。
「知らない。花なんて興味持って見たことなかったし」
「もったいないな。こんなに自然に囲まれてるのに」

自分の人生の選択が間違っていたとは思わない。
今こうして、家族皆で同じ道を歩いていられるのだから。
ただ、この場所に立つと、違う選択もあったのかな、と思うだけ。
家族や地元の友達と一緒に過ごし、友達の見舞いに行ったり、孤独になった友達を慰めたり、年老いた両親を支えたり。

心地良い春の風に乗って、
あの日、駅のホームで、上京する自分に両親がかけてくれた言葉が届いた。
「どこに行っても頑張れよ。ホントにダメなら帰ってこい」
帰ってくることはなかったが、帰りたくなかった訳じゃない。
東京を好きになれないまま、ここまで生活を築き続けてきた。

「何も間違ってはいないよな、うん」
「…なんか言った?」
「いや、帰ったら、じーちゃんとばーちゃん連れてお昼食べに行こうか」

どんな時代の自分にも、誇りを持とう。
選択が間違っていたかどうかを知る術はない。
その時の自分にとって最善と思える選択をして今がある。
後ろめたさはきっと、幸せの裏返しなのかも。

4/30/2024, 2:20:29 AM