結城斗永

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「鴉の勝手でしょ」
 幼馴染の円香(まどか)が僕を庇うように言った。円香は何かあるといつも僕を守ってくれる。恥ずかしながら、鴉(からす)というのは僕のあだ名だ……。
「だって、鴉みたいなのが、さゆみと釣り合うわけないじゃん」
 クラスメイトの裕二(ゆうじ)が『ない』のところだけやけに語気を強めて言う。
 すべての発端は、僕がさゆみちゃんへの手紙を書いているところを、裕二に見られたからだった。
「さゆみちゃんはクラスで一番ビジンなんだ。お前みたいなビンボー人は相手にもされないさ」
 僕が鴉と呼ばれているのは、『拾いグセ』のせいだった。学校の校庭や帰り道に、きれいな石ころや、空き缶のプルトップ、ビンの蓋を拾っては、ポケットに入れるクセがある。
「あんた、鴉のこと何もわかっちゃいない」
 円香は裕二を指さしながら続ける。
「鴉はとっても優しいんだから。それにただ何でもかんでも拾ってるわけじゃないの!」
「は、恥ずかしいから、もういいよ……」
 僕は袖で涙をぬぐってから、円香の腕を小さく引く。
「この際だから言っとくけど、裕二なんかよりも鴉のほうがずっと頭もいいし、心も綺麗なんだから」
「それとこれとは別だろ!」
 その時、ガラガラと教室のドアが開き、タイミングがいいのか悪いのか、さゆみちゃんが入ってくる。
「おい、さゆみ。ちょうどいいところに来た! おまえ鴉になんか興味ないよな?」
 裕二が強い口調で言う。さゆみちゃんは怯えたように首を反らしてる。
「ゆ、裕二くん……。そんな風に言ったらさゆみちゃんが怖がるよ」
 僕がそう言うと、裕二がこちらをギラリと睨む。さゆみちゃんの震える声が聞こえてくる。
「山野くん……を、いじめないで」
 山野っていうのは僕の苗字。僕をそう呼んでくれるのは、さゆみちゃんだけだ。さゆみちゃんがポケットから小さな指輪を取り出す。僕が校庭で見つけた綺麗な小石を磨いて作った指輪。ビンの蓋を加工して作った石座に、アルミのプルトップを溶かして作ったリングの自信作。
「昨日はありがとう。これ、大事にする」
 さゆみちゃんが僕を見てニコリと笑う。裕二がケッと吐き捨てて去っていく。円香が僕を見て親指を立てる。
「さすが、鴉!」
 僕は、鴉というあだ名が少し気に入っている。

#なぜ泣くの?と聞かれたから

8/19/2025, 1:33:37 PM