『心の灯火』2023.09.02
またやられてしまった。
ただ、歩いていただけなのに、古巣に近しい連中に絡まれて、ボコボコにされた。
抵抗したところで、オレが勝てるはずもない。だから、その嵐が過ぎるまで耐えた。
連中はオレをしたたか打ち据えて満足したのか、どこかへ行ってしまった。
痛む体を引きずりながら、いつもの公園までやってくる。
いつの間にか雨が降っていて、ずぶ濡れになったオレはトンネルの中に隠れることにした。
オレには狭すぎるから膝を抱えて縮こまる。
今になって痛みがやってきた。
痛くて、悲しくて、みじめで。
足を洗ったはずなのに、どうしてこんな目にあうのか。
彼らからすれば、オレは裏切り者なのかもしれない。言われなくてもわかっている。
オレはただ、普通に暮らしたいだけ。
オレとして産まれた時点で、それすらも許されないのか。
憂鬱な気持ちが、のしかかってくる。
涙がこぼれそうになったとき、ぱっと明るくなった気がした。
「こんなところにいたのか」
呆れたような驚いたような、でも優しい声が聞こえた。
顔を上げると彼がいて、目尻のシワを深くしながら微笑んでいる。
「帰ろう」
差し出す手。大きくて指先にタコができている。武術をやっている男の手だ。
手を取った瞬間、安心して涙がボロボロ零れた。彼は苦笑いをして、よしよしと頭を撫でてくる。
「君の選択は間違っていない。だから、気にしなくていい」
全てを理解し受け入れてくれる彼の言葉は、暗闇にいるオレの心に、優しい火を灯してくれた。
9/2/2023, 11:40:26 AM