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私には好きな人がいました。陸上部の晃くんと言います。彼は足が早くて、皆の人気者でした。私は四六時中、彼ばかりを見ていました。でも、彼はある日突然、陸上部をやめてしまいました。走ることをやめた彼に、私は恋心が冷めてしまいました。
私は次に隣の席の遥人くんを好きになりました。彼はいつも楽しい話をしてくれます。私は彼と笑い会うことが多くなりました。彼も私と話すことを楽しんでくれているように思いました。でも、彼はある日を境に、私と口を聞いてくれなくなってしまいました。
次に私はバスケットボール部の部長の村上先輩に興味を持ちました。高身長でダンクシュートをする姿がとても格好良く、顔が整っていて優しいので、学校中の女子から人気のある先輩です。でも彼は、私と目が合うと手を振ってくれます。ある日、彼から「二人で話したいから放課後体育館に来て」と言われました。私は期待で胸が踊りました。ホームルームが終わった直後に御手洗へ駆け込み、鏡の前で髪を整え、少しだけメイクもしました。私は平静を装って体育館に向かいました。体育館にはまだ部活の人も集まっておらず、先輩が1人立っているだけでした。私は少しだけ躊躇ってから、覚悟を決めて足を進めます。「なんですか?」と先輩に声をかけると、先輩はまるで虫でも見るような目で私を見つめ、「もう来ないでくれ」とだけ言いました。
私が好きになる人はことごとく私の前から消えてしまいます。私は人を好きになってはいけないのだと錯覚するようになりました。
そんなある日、彼に出会いました。廊下でプリントを落とした時、どこからか颯爽と現れてしゃがみこみ、「落としたよ」と笑顔で拾ってくれました。そんな彼に、私は最後の恋をしました。彼は隣のクラスで、翠くんと言うそうです。それからというもの、廊下や移動教室でよく会うようになりました。きっと面識を持ったため、話しかけてくれるようになったのだと思います。彼は優しかったです。忘れ物をしたら貸してくれるし、分からない所があれば聞いてもないのに小声で教えてくれます。そして何より、彼は私をよく見ていました。私が好きなものや私の癖など私の事をたくさん知っていました。それに、授業中にふと彼を見ると目が合うことがよくありました。あまりにも会うので、私は彼を意識せざるを得ませんでした。やがて彼の顔を見るだけで気分が高揚し、頬を赤らめるようになりました。そんな私の姿を見て、彼も少し耳を赤く染め、嬉しそうな表情を浮かべるのです。私たちは好き合っていました。
告白は彼からでした。「ずっと好きでした付き合ってください」そう言われて、私は間髪入れずに「はい」と元気よく答えました。彼は優しかったです。底なしに優しかった。時々、怖くなるほどに私を知っていて、優しくて、恐ろしくなるほどでした。
気付けば彼とは5年も長く続いていました。その日は彼が宝物を見せてあげると言い、私を家に招きました。彼は私の前に銀色の缶を出しました。そして、中身をそっと開きました。
「これは…何?」
中には白い小さな物がいくつか入っていました。
「これはね、晃くんだよ。」
私は硬直しました。
「これは遥人くん、これは村上先輩の彼女」
頭では察しましたが、理解が追いつきませんでした。
「これ……爪?」
「そうだよ」
翠くんは目をギラギラさせてこちらに笑いかけます。
「君を見た人みんなの爪を貰いたかったんだけど、流石に人数が多すぎたんだよね」
彼は晃くんを弄りながら言います。
「だから、君が好きになった人と、君を好きになった人の爪だけ」翠くんは少し残念そうな顔をしました。
私はやっと理解しました。彼との出会いは偶然なんかではなく、彼が作り出した必然であり、彼が異常に私に詳しかったのは私の事をストーキングしていたからであると。今更こんなことに気づいてしまいました。
「私の恋が実らないのはあなたが裏で手を回していたから?」
「そうだよ、ごめんね。君から離れるように言って足の爪を剥ぐと、みんな言う通りにしてくれるんだ。」彼の顔は狂気に満ちていました。
でもそんな顔を見てときめいている私がいることも確かでした。そして、彼も分かっているようでした。
「このことは秘密にしていたんだけど、今の君ならわかってくれると思ったんだ」
そうだね。その通りだ。だってこんなにも愛おしく見える。
「ありがとう。私にはあなたがいればそれでいい」
笑顔で伝えました。翠くんはとてもとても嬉しそうでした。
私はきっと、この悪魔から一生逃れられません。

11.20 宝物

11/20/2024, 3:01:36 PM