『眠れないほど』
夜が更けても将棋の駒をパチパチ音を立てて置いていると、近所の猫がやって来た。猫は夜もよく眠るものかと思っていたがそいつの目は爛々と輝いていておまけに尻尾が2本もあった。
「一局どうだい」
猫がニャオンと鳴いたので駒を並べ直して勝負を始めることになった。
定石通りに歩兵を動かすと猫も毛むくじゃらの手を器用に動かして歩兵を動かしてくる。一手一手を動かすうちに猫は念力を使うようになっていたが、それも気にならないぐらいに戦局は一進一退の攻防を繰り広げていた。
「ニャオン」
会心の一手を置いてしばらくの間の後、参りましたというように猫がうなだれた。とはいえ相手もなかなか腕が立ち、一歩読みが違えばこちらが負けているような対局だった。
「ミーちゃーん、ごはんよー」
近所のおばさんの声に猫は身を翻して去っていく。とっぷり暮れていたはずの夜はいつの間にか慌ただしさの漂う朝になっていた。
12/6/2024, 3:54:08 AM