「別に優勝目指してたわけじゃねえし」
重い空気を入れ替えるつもりだった。
青春の最後の日がこんなに湿っぽいのは嫌だと思ったから。
空気は入れ替わるどころか止まってしまった。
「お前、3年間必死に優勝目指してやってきたわけじゃねえのか!?」
「さすがに空気読めよ!」
「俺ら一緒に頑張ってきたのに」
仲間からブーイングの嵐が巻き起こった。
いや、そうじゃなくて…
何を言っても嵐はおさまらない。
「てめえ!二度と顔見せるな!」
3年間の絆はあっけなく途切れてしまった。部室から追い出され、手持ち無沙汰で学校を出る。
思い出が走馬灯のようにぐるぐる頭を駆け巡る。部活は辛かった。やたらと体を痛めつけられて、根性論を叩き込まれた。のんびりと高校生活を過ごすつもりだった俺は早々に入る世界を間違えたことを悟った。
だが3年間も続けてきた理由はあいつらだった。
確かに俺は優勝とかどうでも良かった。たかが部活の大会で優勝したところで何になる。
ただ、あいつらが優勝したがってたから頑張ってただけだ。やっと終わったんだ。
ちょうど校門を出ようとするときに顧問と鉢合わせた。
「反省会は終わったのか?」
「いや…」
空気読めなくて追い出されました、なんて最後の最後に言えるわけない。
「試合終了の時のボール」
顧問の声が柔らかくなる。
「あそこで点を取っていたとしても、どうせ負けてた。お前なら分かってたよな?
いつも冷静に試合の盤面を見てたんだから。
どうして諦めなかった?」
ボールを捕らえた時に聞こえたタイムアップのブザーが甦る。
「1秒でも続けばいいと思って。」
優勝なんか目指してない。部活も早く辞めたかった。
けれどあいつらとの時間を1秒でも長く続けたかった。それだけの思いで体が動いていた。
顧問がいつもの説教の調子で言う。
「なんでもないフリをするな。3年間を無かったことにするな。お前の気持ちを素直に伝えてこい。」
涙がこぼれ落ちる。俺は部室に走った。
ボールに飛びついた時よりも早く体が動いた。
「仲間」「何でもないフリ」
12/11/2024, 12:50:48 PM