SAKU

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小指に巻かれる糸、と聞いて真っ先に血が止まりそうだと思った。赤という色もその一助を買っている。
軽く潜めた眉に気づいたのだろう相手が口角を上げ、眉尻を下げた。続いてロマンチックじゃない、恋人ができるのはいつになるかと嘆くふりをする。
どっちが。
言うほど興味もなく、話のタネくらいに考えて、聞き齧ったことを話題に出したにすぎないだろう。
他の人間が持つ印象ほど、空想好きでもないのを知っている。むしろ現実主義でこんな話には懐疑的ですらある。
考えは口に出たらしく、いたずらが露見した子供よろしく、悪びれなく伺い見てくる。
相手の髪だとか指先だとかの小さな一部を欲しがるくらいなら全部欲しいといえばいいのに。
自分だけが相手と生まれた時から結ばれているなんて、出会うまでの人生や努力はなんだというのか。
共感も納得もできない話だ。
目に見えない繋がりを信じたいのだろう。赤というのもときめきの色だ。
そう反論を唱えられたが、相変わらず細めた目は面白がっているのは明らかで、完全に同意とはいかずとも自分と似た考えを持っているらしい。人間を興奮させる色らしいけど、と続けた。
糸なんて実際ないなら引っ張ることもできないし、繋がった相手に伝わるわけでも、引き寄せられるわけじゃないだろう。
すぐそばにいて、どこにいるか知っている。呼べば来てくれるしすぐに行ける。
この数年で近づいた距離の方が、お互いに気付いた関係が、ずっと"ときめく"ものだろう。
そういうことじゃないんだよ、と相手からの声音は呆れの響きをしていたが、染まった頬は誤魔化しきれていないので。
赤というのは良い色かもなと思った。

7/1/2024, 3:38:49 AM