旅路の果てに
長い、長い旅だった、と彼は語った。
人生の半分以上を旅してきた彼はたくさんのことを知っていて、いつも色んな話をしてくれた。
旅先で出会った優しい人たちの心温まる話や反対に怖い人たちの耳を塞ぎたくなるような話。純粋すぎて心配になるような人たちの話や騙そうとしてきた人たちの話。旅人を歓迎してくれた人たちの話や逆に追い出そうとしてきた人たちの話。
世界には色んな人がいて、色んな国があることを彼は教えてくれた。
でも、そんな彼でもわからないことはある、と言う。
何でも知っているのに、と首を傾げれば、彼は口を大きく開けて笑った。
知らないことだらけだ。こんなに旅をしてきたのに、世界はまだまだ広くて、知らないことであふれている。どれだけ時間があったとしてもきっとすべてを知ることは不可能に近いのだ、と。彼はそう言った。
木葉がひらひらと舞い散る中、彼はやっと終わるか、と呟いた。何が、と聞けるほどもう子どもではないから、ただ彼を見つめるだけに留める。
思えば、しわも幾ばくか増えて、もうその足で歩くことすらままならなくなっていた。
長い、長い旅だった、と彼は語る。旅路の果てに彼は静かに笑って、眠りについた。
1/31/2023, 2:11:15 PM