彼女と手を繋いで大通りを歩く。
一緒にいるととても安心できる彼女。
でも今の僕の心の中は不安でいっぱいだった
こんな事彼女と一緒にいる時に考えるべきではないと分かっている。
でも考えないようにすればするほど、深みにはまっていく。
思い出されるのは朝の事。
僕は大事なデートの日、がっつり寝坊して慌てて支度して家を出た。
問題はその後だ。
その時僕は玄関のカギをかけただろうか?
どうしても思い出せない。
いつもは家を出る時、ちゃんとかけてあるか確認する。
でも今日は普通じゃなかった。
いつも無意識でカギをかけているけれど、慌てて出てきたのでカギがかかっていないのかもしれない
「どうしたの?」
彼女が僕の顔を覗いていた。
「何でもないよ」
僕は嘘をつく。
こんな自分を知られるわけにはいかない。
「嘘。だって私の手、痛くなるくらい握ってるもの」
「ごめん!」
僕は思わず握った手を離す。
だけど彼女はにこりと笑って、再び僕の手を握る。
「大丈夫」
僕の目をじっと見る。
「困っていることがあるなら一緒に悩みましょう。私たちは恋人なんだからね」
彼女の優しい言葉に思わず、目から涙がこぼれる。
なぜ僕はこの人に隠し事なんてしようと思ったのだろう。
こんなにも頼りになる人なのに。
「実はね。もしかしたら玄関のカギをかけてないかもしれないんだ」
「そっか。それは不安ね」
そういうと彼女は少し考えた。
「じゃあ、今から君の家に行きましょう」
「えっ。
駄目だよ。今から家に行くとなるとデートできなくなってしまう」
「でも不安、そうでしょ」
「そうだけど……」
彼女の言葉は正鵠を射ていて、何も反論ができない。
「それにさ。おうちデートができるって考え方もあるでしょ。
おうちデートのついでにカギの確認、それで行こう」
彼女はあっさりと予定を決めてしまった。
「さあ、君の家にレッツゴー。
私は君の家を知らないからエスコートしてね」
そう言って彼女は無邪気に笑った。
本当に敵わないなあ。
「分かったよ。こっち」
僕は繋いだ手を引いて、自分の家に案内する。
彼女の温かさが、不安だった僕を安心させてくれる。
しばらく歩いていると、彼女が質問をしてきた。
「一つ、聞きたいことがあるんだけど……」
「何?」
「君って玄関のカギがかけてあるかどうか、気になるタイプ?」
「うん、毎日出る時確認してる。
今日は忘れちゃったけど……」
「なるほど。提案なんだけど、次から私が確認してあげようか?」
「えっ」
彼女の言葉に思わず振り向く。
「つまりそれって」
「うん、一緒に住もうよ」
彼女の言葉は魅力的だ。
もしそうなれば、僕は安心して外出することが出来る。
「私はきっちりカギをかけられるタイプだから、頼りにしていいよ」
「うーん、突然すぎて……」
「もー。じゃあデートが終わるまでに決めておいてね」
これ駄目って言えないやつだな。
言うつもりもないけど。
「そうだ、同棲が無理でも私がカギを確認するから安心してね」
「どういう意味?」
わざわざ家に来て確認してくれるのだろうか?
「君の家の近くに部屋を借りて、玄関を監視してあげる。
さながらストーカーのように」
「……冗談だよね?」
僕が聞くと、彼女はふふふ笑う。
「それどういう意味なの?」
僕の質問に、彼女は笑うだけで答えてくれない。
今まで見たことのない彼女の様子に動揺してしまう。
初めて僕の家に来るから、緊張しているのだろうか?
彼女の知らない一面を見てしまい、僕は不安になるのだった。
1/26/2024, 9:49:01 AM