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『冬休み』

太陽の光が眩しい昼間の病院。
昨日までの悪天候が嘘のように、空は雲一つない青空だ。
季節は真冬。寒さから体調を崩す患者が多く、毎年この時期は忙しくなる。
しかし今日は、なぜか病院内はがらんとしており、医者や看護師は暇を持て余していた。
外科医の菜緒も例外ではなく、デスクに座ってどこかの偉い医者が書いた論文をだらだらと読んでいた。
菜緒は窓際の席なので、壁についている大きな窓から外の様子を見ることができる。
明るい日差しに目を細めながらも、窓に顔を近づけると、ちょうど病院の隣にある公園が見えた。
公園ではプラタナスの木の下で子供たちが遊んでいる。
真昼間にも関わらず子供が遊んでいるのは、冬休みだからだろうか。
菜緒は大人しい子供だったので、外で友達と遊ぶことはあまりなく、家で本ばかり読んでいた。
そんなことを思い出しながら外を眺めていると、先輩である早瀬が隣の自分のデスクに座り、菜緒と同じように外を眺めていることに気づいた。
いつ入って来たのかは分からないが、早瀬はいつも気づけばそこにいるといった感じなので、特に気にしていない。
流石に、足音も立てずに後ろに立っていた時は驚いたが。
「今の時間、学校じゃないんですか?」
公園で遊ぶ子供を眺めている早瀬は、時計をちらっと見てから言う。
『冬休みじゃないですか?』
菜緒が言うと、早瀬は少し吐き捨てるように、あーありましたねそんなもの、と言った。
「まぁ、社畜には関係ないでしょうけど」
そう、うちの病院は休みが極端に少ないのだ。
『1日ぐらいあってもいいと思いますけどね……』
「ですよね?どうせ来てもやる事ないのに出勤させやがって……。上層部の野郎共なんてほとんど仕事してないじゃないですか」
早瀬は呟くように言う。
もし院長がこれを聞いたら、医者にあるまじき発言だと怒るだろう。
しかし早瀬がそう言うのも無理はない。
彼はアメリカの学会に出席し、そのままアメリカで緊急オペを一件済ませ、昨日帰国したところだった。
もちろん休みは無しである。
おまけに今日は徹夜明けで出勤したらしい。
早瀬は寝ていないと口が悪くなるというのは、周りの外科医の中では共通認識だ。
二人は窓の外を眺めながら、上司に八つ当たりをされたとか、友達の惚気話がだるいだとか散々愚痴を垂れた。
誰もいないのをいい事に暴言を吐いて少しすっきりしてきた頃、緊急事態を知らせるベルが鳴り響いた。
「来たか」
その音を聞いて、早瀬と菜緒は医者の顔になる。
二人は長い白衣を翻して、病室へ走っていった。

12/29/2024, 8:19:27 AM