Yushiki

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 某有名ファーストフード店で、最新AI技術を搭載した接客ロボットが導入された。正確な顔認証と精緻な読唇機能付きで、客の注文に素早く応じられるうえ、聞き間違いによる注文のミスを限りなくゼロにするなど、着実な実績を叩き出していた。
 しかも来店客の注文データーが蓄積され、同一チェーン店で共有される。つまり客が過去に頼んだメニューからその嗜好を読み取り、その者の購買意欲をそそるキャンペーンや新商品の紹介がどこの店舗でも的確にできるようになったのである。


「スマイルひとつ」


 カウンターに手をつき、メニューの端っこを指差す。スマイル0円と書かれた文字に、AIの聞き取りやすい機械音が快く応じた。

『かしこまりました。ご一緒にこちらのナゲットはいかがですか?』
「いや、いい」
『それでは少々お待ちください』

 ロボットの顔に当たる部分には液晶の画面がついている。その液晶画面に可愛らしいスマイルの絵文字がパッと表示された。

『ありがとうございました』

 その絵文字を見届けて俺は店を出る。しばらく歩くと同じチェーンのファーストフード店の看板が見えた。迷わず店内に入り再び「スマイルひとつ」と注文する。

『かしこまりました。ご一緒にこちらのシェイクはいかがですか?』
「いや、いい」
『それでは少々お待ちください』

 先程と同じくロボットがスマイルの絵文字を表示する。それを見た俺は店を出て、すぐにまた近くの同じチェーンの別の店へと入った。
 どのロボットたちもスマイルと一緒にすすめる商品が毎回違うこと以外は、全て同じ受け答えである。

 ちょっとこれではなぁと、半ば諦めかけていた時、「スマイルひとつ」と言い切った俺に向かって、けたたましい警報音が鳴り響いた。


『警告。貴方はこれまで9つの店舗で同じ注文を行っています。そのうち貴方が当社で購入された金額は0円です。これ以上の同メニューの注文は営業妨害とみなし、しかる処罰を下す可能性があります。繰り返します──』


 辺りにいた客が一斉にカウンターの方を振り返る。俺は奇異な視線の注目を浴びる中、ニヤリと口角を上げた。

「それじゃあ追加でこのバーガーセットをお願いするよ。あ、ドリンクはコーラで」

 俺がそう告げるとピタリと警報音は鳴り止み、『かしこまりました』とロボットが丁寧な接客で応対した。

 頼んだバーガーセットを平らげた俺は、意気揚々と店を出る。自動ドアをくぐるとすぐにポケットからスマホを取り出し電話を掛けた。

「君のとこのロボットは優秀だね」

 通話口に出た相手に挨拶もそこそこに、すぐさま感想を述べる。

「お気に召していただけましたか?」
「ああ、我が社でも前向きに検討させてもらうよ」

 スマイルとはただ振り撒けばいいってもんじゃない。メニュー表に書いてあろうがなかろうが、簡単に安く売っていいものではないのだ。

 俺は通話を切るとすぐにまた別の通話で秘書を呼び出し、近くまで車を回すよう指示を出した。



【スマイル】

2/8/2023, 11:18:33 PM