灰田

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「七夕」

昔、住んでいた家の近くに笹群があった。
夜にその辺りを歩くと、サラサラサラ…って
風が笹を揺らす音だけが聞こえてくるのが、
なんか怖くて嫌だって、母は言っていた。

私が眠る時もその音は鳴った。
サラサラサラサラ…って音を聞きながら、眠った。

ある日突然、その笹群は無くなった。
切られて地面はコンクリートで固められた。

母は良かったと笑った。
私は、何も思わなかった。

その夜、私は夢を見た。夜の笹群に、

サラサラサラ…と歌う笹に、赤や橙、青や翠、
いろんな色の丸い灯りがふわふわと灯って、
風が強く吹いて、サラサラサラ…
重なって涼やかな鈴の音までが聴こえてきて、シャラシャラシャラ……

「きれいだなぁ、七夕みたいだ」って私が呟いたら、

フッとぜんぶの灯りが夜空ヘ飛びたってゆき…

ふわふわと笹と私から、灯りは離れて、最後の灯りも何処かヘ消えて、真っ暗になって、

…目が覚めた。

7/7/2024, 11:10:26 AM