陽に背を向けて暗がりを生きるような、惨めったらしい生だった。
*
十階の窓から見える景色はいつも同じだ。
向かい側に建つビジネスホテルに、真下を走る自動車の群れ。歩道を行き交う人間の姿はとても小さく見えて、朝と夕に制服を着た学生がちらほら通る。
景色自体は三日で飽きた。でも、時々ここに来る前のことを思い出すと、どろどろとした感情が吹き上がる。
挙句、窓に反射した自分の首元が見えた時なんかには、何もかも全部ぶっ壊してしまいたくなる。
なんで、俺ばっかり。そう思ったことは、ここに来てから数え切れないほど多い。
昔から、人に寄りかかるのも、人に頼るのも苦手だった。
だから身寄りを失った時、居場所も、友人も、頼れる人も、何も無いことに気がついた。俺が居なくなったところで、気にするやつなんて誰も居ない。
俺がここに居たって、誰も探しになんて来ない。
苛立ち混じりに拳を窓に叩きつける。分厚いそれはビクともしない。
強化ガラスだからね、と薄ら笑いで諭してきた、いつかのあいつが脳裏によぎる。腹が立つ。
腹が立つ。
首を触ると、指先に異物が触れた。それがすっかり体温と馴染んでしまっているのが、より一層癪に触った。
初めの頃は、ここに鎖がついていた。部屋中歩き回れるくらいの長い鎖だ。でも、その一週間後には外れた。あいつの居る時にそれで首を吊る真似事をしたら、慌てて外された。
いつもの薄ら笑いが引っ込んで、青ざめていく様は傑作だった。
しかしそれ以上は何も変わることなく、首輪だけがいつまでも、俺の首に居座っている。
人権は金で買えるらしい。仮にも金で買われた以上、俺に拒否権は無い。
ここにいる限り、俺はずっと、陽のあたる場所は歩けないんだろう。
猫よろしく部屋に閉じ込められて、犬のように首輪をつけられ、ペットのように俺を管理しながら、そうしてあいつは笑って言うんだ。
『良かったね。あそこで独り寂しく死なずに済んで』
「……反吐が出るな」
とことんまで狂ってる。
そんなにペットがお望みなら、次はその喉笛に噛み付いてやろうか。
/『暗がりの中で』
10/29/2024, 9:21:49 AM