月下の胡蝶

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お題《鳥のように》



鳥は不変なのだよ。





風の国は別名《鳥の王国》。


ここへ訪れるには、風にのってこなければならない。


対の鳥がいる者ならば風に乗るのはたやすく造作もない事なのだが、風と縁のない者はまずたどり着く事さえできないのだから。


なんとか聖なる風吹く崖にやっとの思いで立つ事はできても、つまり風の国へは行けない。――無謀だよなあ、なんとかなる思考。己の馬鹿さ加減に呆れつつ、昏い昏い底から吹いてくる風にゴクリと喉を鳴らす。



これ、落ちたら助からないよな……?



俺は気づかなかった、この時すでに鳥がいたことに。




「もっと近くで、覗きませんか? いい風ですよ」


「は? そんなの死ぬじゃん――って、え!?」




頭上にいる男が、楽しそうに観察している。――鴉みたいに真っ黒だ全身。年齢に関しては青年くらいに見えるが、実際どうなのかは知らない。



「ああ失礼。人間は鳥じゃないですもんねぇ」

「悪かったな」

「いや? 悪くはないんじゃないですか。――鳥は不変ですが、人間はそうじゃないのですから」

「もーどっちなんだよお前」

「お前、ではなく――クロウです。あなたは、鳥の王国に行きたいんでしょう? もし私の手伝いをしてくれるのなら《対の鳥》になってもいいですよ、さあどうしますか」




これは夢が叶う唯一の方法かもしれない、俺はリスクなどまったく考えず即答した。




「ああ!!」


8/21/2022, 11:44:06 AM