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『星空の下で』

 ダイヤ、金、プラチナ、ルビー、サファイア、トパーズ……
 そんなものをこの世界からめいっぱいかき集めて、すべてばら撒いてしまったような星空だった。
 新月の夜、見上げる空にはひとすじの雲も見当たらない。
 嘘のような満天の星空では、どこを向いても星が瞬いて光っている。
 
「北極星、どれ?」
 僕の問いかける声に「えーと」と隣から思案する友人の声が聞こえた。
 自分でも探しているが、こんなにも星が多いと僕には見分けがつきそうにない。
 「あれが、北斗七星だから……」
 横から伸びてきた腕が天に掲げられる。星空に黒いシルエットで描かれた華奢な腕、その指の先を懸命に探すと、確かに他より目立った七つ星がみつかる。
 そこから先の探し方は知っているので、ようやく空に輝くポラリスを見つけることができた。
 こぐま座α星。淡いトパーズ色で他の星に負けない光を放ち、真北の空に輝いている。

「この北極星を眺めるのは、今日で最後か」
「そうだね」
 僕の言葉に、友人は淡々と答える。そうして何かを探る気配の後「見つけた」と再び天を指差した。
 満天の星空の中、雄大に流れる天の川のほとりに佇む織姫様。こと座のベガが青白い光を放っている。
「次に目覚めたときには、織姫が北極星か」
 
 ――人類は、明日から12000年の眠りにつく。
 この後、地球に起こる気象変動をやり過ごすために。
 目覚めた頃には、真北に輝くのはベガなのだそうだ。
 全員が目を覚ます保証はない、それでも僕たちは眠りにつく――。

「見られると良いね、ベガの北極星」
「見られるさ、きっと」
 
 再びここで、二人一緒に、新たなポラリスを。

4/5/2023, 2:20:15 PM