七風

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「それと…スマイル一つください」

目の前に立つ男子高生がそういった
確かにメニューの端っこにはスマイル0円って表記がされていて
頼もうと思えば頼める

でも私は笑顔が苦手だった
笑ってと言われて笑おうとすると、ぎこちなくて怖くなってしまう
昔、いとこを笑顔で泣かせたことがある
そのくらい笑顔が下手なのだ

私は今の私にできる精一杯の笑顔を作って、彼に見せた
彼は

「かわいい」

ただ、そういった
こんな不恰好な笑顔が可愛いわけないのに
「えっ、あ、ありがとうございます?」
彼からの思いもよらない言葉に私は驚き会計の手が止まる
「おーい」
その一言で私は現実に帰ってきた
「申し訳ございませんこちらお釣りとレシートです」
慣れた手つきで彼にお釣りとレシートを渡す
「ありがとう」
彼はそう言って私から、お釣りとレシートを受け取る
そして
「また明日ね」と笑顔で告げレジを後にした

明日学校で私は彼に“普通に”おはようと言えるだろうか
なんだか変に意識してしまいそうだ
私は気持ちを払うように両頬を叩いて仕事に戻った

「いらっしゃいませ!」


お題:『スマイル』

2/8/2022, 2:26:05 PM