こっこ

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鐘の音


娘が高校生の時、取っ組み合いの喧嘩になった。今では理由はわすれたが、仲直りの後に「ママとどこか行きたい。」と言われ、選んだ場所は小江戸と呼ばれる川越だった。
駅から歩いてすぐに、タイムスリップした街並みがあった。面白いお店屋さんも並んでいた。
埼玉名物のお芋を売るお店で小腹を満たし、お昼はちょっと贅沢して鰻を食べた。
一杯のかけそばってあったけれど、一人前の鰻重を半分ずつ頂いた。さすがに飲み物は2つオーダーして。
ひとり親で育ててきたけれど、旅行など連れては行けず、お給料日後の映画館が一番のイベント。
そんな生活だった。
だから娘の真美は川越のサプライズをとても喜んでくれた。
露天のおじさんが売っていた、オレンジの針金で器用に作られた手のひらサイズの自転車をお土産に買った。
大人になっても、大切に机の本棚に飾られていた。
川越から帰る頃、夕方になって鐘の音が響いた。
時の鐘と言って一日のうち4回鳴るらしい。腕時計は6時を指していた。
情緒溢れる小江戸を後にして、電車に揺られた。
窓を見ながら私は、これから先、鐘の音を耳にする度に時の鐘を思い出すのだろうか…。そんなことをふと思った。
窓に映る娘の横顔も微笑んでいるようにみえた夜の西武線。
頭の中で小さく鐘の音が鳴っている気がした。

8/5/2024, 9:48:04 PM